連続インタビュー「心の社会性」
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第12回
文学研究科教授  宇都宮輝夫
-- 先生の研究テーマは宗教学と死生学だそうですが、何となくわかる気もする反面、具体的にイメージできない分野です。わかりやすく説明してもらえませんか?

 この二つは異質なものが並列しているわけではなく、私の中では根でつながっているものです。
 まず、宗教学はかなり多様な研究に分かれていますが、その中でも私が追求しているのは、人間の生活の中で宗教が果たす機能です。しかしこの機能という代物がまたじつに多種多様なのです。その中でも最近私が注目しているのは、アイデンティティ形成における宗教の機能です。
 人間は価値観と種々の物質的欲求や(名誉心などの)観念的欲求に突き動かされていますが、価値の追求と欲求とが真っ向から対立する場合には、葛藤に陥ります。しかも、時には相異なる欲求同士が対立する場合もあれば、相異なる価値が内面でぶつかり合う時もあります。人間はこうして諸価値と諸欲求との間をフラフラさまよっていますが、四六時中苦しく深刻な決断を迫られているわけではありません。むしろたいていは半ば無自覚的に慣習に従って行為することができます。それは、社会的に共有されている行動準則があって、それを各人が自己の内面に取り入れているからです。 
 宗教が社会的な行動準則や価値観を象徴的に表現していると見られる時代・地域では、個人のアイデンティティ形成にも宗教が重要な役割を果たしていると考えられるでしょう。ところが現代のように社会が多様化して、相互にかなり異質な価値観が並立した場合には、アイデンティティが不安定にならざるを得ません。




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-- それでは死生学とは?
 死生学とは、人間がこれまでの自分をどう受け容れ、また死という避け得ない未来を持つ自分をどのように受け容れうるのかを問う学問領域だと思います。人間は自分で記憶を変えたり消したり作ったりすることがあるのですが、記憶を変えるということは、自分が受容できるアイデンティティを保つことにつながります。ここでアイデンティティ論と死生学とがつながってきます。 宗教が「死を越える」というテーマを歴史的に常に問題にしてきたため、死生学はこれまでしばしば宗教との関連で問われ、答えられてきました。しかし、一番肝心な問題はやはり社会との関わりの中で人間がどのようにアイデンティティ形成してきたのかということだと考えています。ここでのキータームは、社会とのつながりということと、基本的信頼ということだと思っています。
  ベルイマン監督の映画『野いちご』。老年になっても人は自分をどう理解してよいのか、どう死を迎えてよいのかわからず、さまよう
--どういうことですか?  
 私たちが知っていることは、ほとんどが習ったことです。たとえば富士山の高さを知っているのは、地図で見たり学校の先生から教わったりしたからです。学習とは他者を信じることから始まります。疑う、確認する、反証するといったことはそのあとです。これと同じように、人間は生活の仕方をたたき込まれ訓練される中で、伝統としての社会の倫理観を受け継いでいきます。人は社会と一体になり、社会を信頼するからこそ、それが善悪の基準としていることを受け容れられるのであり、無反省的に伝統に従うことができます。社会と連帯し、社会と他者とに基本的信頼を持っていることこそ、おそらく死の受容の要石になると私はにらんでいます。
-- 宗教学と聞いたので、どうでもいい屁理屈をこねくり回す神学を研究するのだと思っていましたが、だいぶ違うのですね。
 断っておくと、それも私の研究の重要な柱です。神学は素人にはどこをどう進んでよいのかさっぱりわからない青木ヶ原の樹海のようなものです。でもそこは、生きる希望をすべて失った人が最後に行き着く場所でもあるんですよ。

メモ
北海道大学大学院文学研究科・文学部 宗教学インド哲学講座 宇都宮ゼミ
博士課程5名、修士課程4名、学部生8名 
他己紹介
宇都宮先生とお話していると、宗教社会学の「知識」が「知恵」へ昇華してい る、と感じる瞬間があります。いつか死生学についても伺ってみたいと思って います。
(文学研究科社会システム科学講座 平澤和司)
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