連続インタビュー「心の社会性」
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第3回
子どもに優しいコミュニケーションはすべての人に優しいコミュニケーションになる
文学研究科心理システム科学講座  仲真紀子
-- 子どもとの法廷でのコミュニケーションについて研究されているのですね
仲教授写真 はい。私は、記憶やコミュニケーションの特性、メカニズムについて広く研究しています。子どもの証言の研究はそのうちの一つです。事故や事件に巻き込まれた子どもに事情をたずねたり、法廷で話してもらったりすることがありますね。法廷でなくても、親や教師がいじめの状況を聞くとか、医師が症状を聞くときなどには、子どもに事実をできるだけ正確に話してもらわなければなりません。ところが大人は、子どもに理解できない「難しい」ことばで質問したり、先回りしてヒントを与えたり、答えを誘導したりしてしまいがちです。そうなると、子どもが答えられない、記憶していた事実と異なることを言ってしまう、というようなことが起こります。このメカニズムを調べ,どうすれば情報をより正確に引き出せるのかを研究しています。
-- 他人のことばが影響して記憶の内容が変わってくるということですか?
 はい。そもそも、人間の記憶はあまり「信用できない」ものです。たとえば駅から大学までの道のりで、交差点にどんな車が何台停まっていたか,途中ですれ違った人の服装はどうだったか•••。正確に思い出すのはなかなか難しくありませんか?そのような状況で,「白い車を見なかったか?」とか「黒いスーツを着た人とすれ違わなかったか?」と聞かれると,「見たかもしれない」「すれ違ったかもしれない」と思ってしまうことはよくあります。また、「・・・ではありませんか?」という質問を何度も繰り返すと,最初は「わからない,思い出せない」と答えていた人が,やがて「そうだったかもしれない」と言い出すケースもよくあるんですよ。
 このように記憶が事実と違ったものになってしまう原因はいくつかあります。一瞬のできごとで、記憶がはっきりと定着していなかったり、時間が経って記憶がおぼろげになっているとき、後で他者から与えられた情報が混じってしまう「事後情報効果」、それが実際に体験したことなのか,人から聞いたことなのかが区別できなくなる「情報源の混乱」などです。先ほどお話したように、何度も質問されるうちに情報が作り出され、「偽りの記憶」が生じることもあります。
-- この研究を社会にどのように活かしていかれますか?
 子どもが受けた事情聴取を分析して証言の信用性を鑑定したり、児童相談所や家庭裁判所などで子どもへの面接についてレクチャーしています。
欧米では子どもから必要な情報を得るために、専門家が司法面接(司法的な処遇や裁判のために事実を聞き出す面接)を行います。日本ではまだ司法面接のガイドラインもトレーニングの場もないので、科学的な知見に基づいてガイドラインをつくり、効果を検証できればと思っています。
-- 記憶を正確に引き出すコミュニケーションは子ども以外にも必要ですね
研究室の書架より そうですね。司法の場に限らず、情報を集めるときには、できごとや体験、感じたこと、考えたことを正確に伝えてもらう必要があります。記憶は自分だけの心の中にあるときは個人のものですが、他者に伝え、共有されると社会的なものになる。伝え、共有するためにはコミュニケーションが重要です。子どもに優しいコミュニケーションは、結果的に高齢者やしょうがいをもつ人など、弱者を含むすべての人に優しいコミュニケーションにつながると思います。
 2009年度から導入される裁判員制度では、一般の人が裁判の場で司法的判断に関わるようになりますから、事実にもとづく正確なコミュニケーションはますます必要になるでしょう。
メモ
文学研究科心理システム科学講座 仲ゼミ
大学院生:博士課程5名、修士課程6名
他己紹介
仲先生はいつも明るくエネルギッシュで、とりわけ教育には熱心に取り組まれている方だとお見受けしました。このような先生に恵まれた学生は幸せではないでしょうか。
(文学研究科北方文化論講座 煎本孝)
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