連続インタビュー「心の社会性」
北海道大学大学院文学研究科
教授 山岸俊男 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
教授 亀田達也 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
教授 仲真紀子 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
教授 煎本孝 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
准教授 高橋伸幸 インタビューを読む
北海道大学大学院経済学研究科
教授 西部忠 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
准教授 大沼進 インタビューを読む
北海道大学大学院教育学研究院
准教授 片山順一 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
准教授 結城雅樹 インタビューを読む
北海道大学大学院経済学研究科
准教授 肥前洋一 インタビューを読む
北海道大学大学院教育学研究院
教授 室橋春光 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
教授 宇都宮輝夫 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
准教授 高橋泰城 インタビューを読む
第2回
人間は協同から、「集団の知」を生み出してきた
文学研究科行動システム科学講座教授  亀田達也
-- 集団の意思決定について研究されているそうですね
亀田教授写真 人間はコミュニケーションがとても上手な動物です。この特性を生かし、「集団の知」をうまく引き出すことで、人類は成功してきたといえます。しかし、集団による協同作業はジレンマを含んでいます。例えば、集団で何かを決めようとするとき 、メンバーの知恵や情報を結集すればよい結果が得られるでしょう。しかし、情報を集めたり話し合いに参加することは個人的な負担になる。それならば 、協力的なメンバーにすべて任せて、自分は出された結論に従った方がよいように思えます。しかし、それでは集団決定が衆愚的になりかねません。
 では、どのように協同から「集団の知」が生まれるのか、それを支える適応的な基盤について考えています。
-- 人間の心は協同作業の中でどのように働きますか?
 私たちの「心」とは集団生活でうまくやるために進化してきた「道具」であるという考え方があります。集団生活では互いに行動を読み合いながら、協力したり協力をさし控えたりなど、自分の行動を決めなければなりません。協同作業場面での作業効率は、作業に協力するメンバーの数が多いほど上がっていきますが、人数がある程度増えると作業が重複したり、メンバー間の調整が難しくなってそれほどでもなくなる。人数が多ければ多いほどよい、というわけではないのです。
 何人かで集団協同作業をする実験をやると、作業に協力する人と、協力せずに「ただ乗り」する人が現れます。自分の作業にかかる手間や時間に見合う成果が得られるならば協力するし、それほどの成果が得られないならば協力しないという判断をするからです。この実験の結果は、ビジネス分野での経験則「集団での仕事を支えるのは一部の人間である()」を裏付けていると考えられます。
-- 協力するか「ただ乗り」するかの判断に法則性はあるのでしょうか?

著書 複数のプレーヤーがゲームをするときには、相手の出方を読んで、自分にとって最適な作戦を考えますね。相手も同じように自分の出方を読んで作戦を考えるだろうという予測のもとに、お互いの取る手が決まるという考え方を「ゲーム理論」といいます。協同作業の例では、集団内に協力者が何人いるかによって、自分が協力すべきか、すべきでないかが理論的に決まります。
 周りに十分な協力者がいれば自分が協力しても集団の作業効率は上がりませんから、新たに協力する必要がない。しかし、周りに協力者が少なければ、自分が進んで協力した方がよい。これがゲーム理論の予測する「合理的な行動」です。しかし、実験をやってみると、必ずしもゲーム理論どおりにすべての人間が動くわけではありません。周りに関係なく常に協力するタイプ、理論とは逆に「周りが協力すれば自分もする、周りが協力しなければ自分もしない」というタイプの行動も見られます。

 面白いのは、こうした行動タイプの違いが、感情の働き方の違いと関係していそうだという点です。人間の感情のしくみについてはまだよくわかっていませんが、感情が協力をどのように支えるのか、また喜び・怒り・嫌悪といった感情がどのように組み合わされることで社会・文化環境への適応が可能になるのか、感情とモラルはどう関係するのかといった問いは、人間の心の社会的特徴を考える上でとても有望に思われます。今後はこうした問題を検討していきたいですね。

)「二八の法則」という。集団では二割(一部)の人間が八割(ほとんど)の仕事をしている、という意味。

 

メモ
文学研究科行動システム科学講座 亀田ゼミ
大学院生:博士課程2名、修士課程3名/学部生:4年生2人、3年生6人  
他己紹介
 亀田先生はアイディアが豊富で、理路整然と考えられる方です。お話していると、私の頭の中の問題も整理されたり、ときほぐされたりするような気がします。
(文学研究科心理システム科学講座 仲真紀子)
<< 前のインタビューへ 次のインタビューへ >>
▲ページの先頭へ戻る
copryright CSM All Rights Reserved. [×] このページを閉じる