連続インタビュー「心の社会性」
北海道大学大学院文学研究科
教授 山岸俊男 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
教授 亀田達也 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
教授 仲真紀子 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
教授 煎本孝 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
准教授 高橋伸幸 インタビューを読む
北海道大学大学院経済学研究科
教授 西部忠 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
准教授 大沼進 インタビューを読む
北海道大学大学院教育学研究院
准教授 片山順一 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
准教授 結城雅樹 インタビューを読む
北海道大学大学院経済学研究科
准教授 肥前洋一 インタビューを読む
北海道大学大学院教育学研究院
教授 室橋春光 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
教授 宇都宮輝夫 インタビューを読む
北海道大学大学院文学研究科
准教授 高橋泰城 インタビューを読む
第8回
ERPで脳のはたらきを探る
教育学研究院准教授  片山順一
-- 「注意」について研究されているそうですね
片山准教授写真 はい。注意には能動的注意と受動的注意の2種類があります。能動的注意とは「すべきこと」をするために意識的に集中するしくみ、受動的注意とはたとえ何かに集中していても不意に現れた「変化」に意志とは無関係に意識が「引っ張られる」しくみをいいます。  たとえば、読書中には能動的注意を働かせて読むことに集中します。ところが後ろで物音がすると、一瞬そちらに気を取られますよね。これが受動的注意です。能動的注意は「すべきこと」をするために不可欠で、受動的注意は突然の危険を察知して生き延びるために必要です。どちらも大切ですが、研究テーマとしては受動的注意の方に興味があります。
-- 2種類の注意について、どんなことを調べているのですか?
 10年ほど前に、「すべきこと」が簡単なときと難しいときとでは、不意の「変化」に対応・処理するための「資源」の配分のしかたが違うという現象を見つけました。このような能動的注意が受動的注意に及ぼす影響を調べています。また、受動的注意によって「資源」が奪われ「すべきこと」が妨害されることがあります。この妨害に影響する要因についても研究しています。
 ちなみに、ここでいう「資源」とは、認知的な処理をするために必要な心的エネルギーのようなもので使える量に限りがあります。認知とは外界のもの、人、状況などを認識して判断する脳の働きのことです。たとえば、免許を取り立てのドライバーは運転をするために「資源」のほとんどを必要とするため、同乗者と会話をする余裕もありません。しかし、運転に慣れることで運転に必要な「資源」が減少し、残りの「資源」で会話もできるようになります。ただし携帯電話での会話にはかなりの「資源」を使うので、運転がおろそかになって危険です。
-- 注意の研究はどのような分野に応用が期待されますか?
 一つは認知メカニズムの解明です。注意は認知の最も基礎的なしくみの一つですから、認知を知るためには注意について知ることが不可欠です。
 次に無意識と意識の関係を解明するヒントになるのでは、とも考えています。無意識というとなにか神秘的な、あるいは怪しげなものを連想するかもしれませんが、進化的に見ると無意識が基本で意識はほんの最近できたものです。また脳の働きもほとんどは無意識に関わることなのです。受動的注意とは意識していなかったものが意識にのぼる過程ですから、これを調べることで無意識・意識の問題にアプローチできるのではないかと期待しています。
 三つめは認知機能を評価する方法の開発です。授業中に廊下の物音や窓の外などが気になりすぎて集中できないタイプの子どもがいます。授業を聞くという能動的注意に対して、他の子どもたちよりも受動的注意が強いのかもしれません。受動的注意と能動的注意のバランスを調べることで、このような子どもを見つけて早めに対処したり、治療・療育の効果を調べたりすることが可能になると考えています。
-- 脳の活動をどうやって調べるのですか?

加算平均の原理 ERP(事象関連電位)という「ものさし」を使います。頭皮に電極を2つ貼り付け、電極間の電位(電圧)差の変化を記録すると波のように見えます。この波が脳波です。脳のいろいろな活動の総和を反映するものなので、生きている間中ずっと出ています。これに対して、光や音などの刺激に対する脳の特定の反応を取り出したものがERPです。 ERPは脳波に比べると非常に小さいので、加算平均という手法で取り出します。このERPを「ものさし」として使えば、外見からは観察できず、しかも一瞬にして起こる脳の活動や反応をミリ秒(1000分の1秒)単位で知ることができます。意識に上らない反応も拾い上げることができるので、注意の研究にとても有用です。このほかにもうちの院生諸君は、ERPを使って、エラーをしたときに脳内で起こる反応や、視覚イメージをつくるときの脳の活動を研究しています。

 近頃は脳科学ブームで、脳の「どこが」活動しているかを色分けしている画像がテレビなどによく登場するようになりましたが、ERPは「いつ」何が起こっているかという時間的な情報を与えてくれます。僕は世の中にこんなにおもしろい「ものさし」は他にないと思っています。基礎研究だけでなく、臨床や人間工学の分野にも使われていますが、今後さらに応用分野が広がることを期待しています。

メモ
教育学研究院人間発達科学分野 片山ゼミ

大学院生:博士課程3名

他己紹介

主に私たちを取り囲む社会の働きに焦点を当てながら人の心理過程を研究して いる私にとって、頭の中のミクロな世界を直接覗き込む片山先生と学生さんたち の研究はいつも新鮮で、その研究技術の急速な発展やインパクトのある発見の数 々に驚かされています。今後人間の科学と社会の科学がどうしたら有意味な形で 互いに手を結べるのかという困難な問題をつきつけられ、楽しく苦悩させてもらっ ています。(文学研究科行動システム科学講座 結城 雅樹)
<< 前のインタビューへ 次のインタビューへ >>
▲ページの先頭へ戻る
copryright CSM All Rights Reserved. [×] このページを閉じる