※本ワークショップは、特定領域研究「実験社会科学―実験が切り開く21世紀の社会科学」
、北海道大学社会科学実験研究センターとの共催で行われました。
スピーカー: 佐藤弥(京都大学)、魚野翔太(京都大学)、間山ことみ(北海道大学)、齋藤寿倫(北海道大学)
日時: 2008年3月5日 (水曜日) 14:00~19:30
場所: 北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟 W308
参加者: 亀田達也、片山順一、石原孝二、結城雅樹、高橋伸幸、大沼進、石井敬子、他20名 (計27名)
内容:
発表 1: 齋藤寿倫・亀田達也
「表情模倣の機能についての実験研究」
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近年、共感の一側面として、表情模倣が注目されている。表情模倣とは、ある個体が表出した表情に他の個体の表情が一致する現象を指す。Blairy, Herrera, & Hess (1999)は表情模倣の機能として、自ら他者の表情を再現することが他者感情の理解の助けになると主張する。また、近年embodied cognitionの分野においても、同様の議論がなされている(Niedenthal, 2007)。本研究では、内集団成員・外集団成員の表情変化を観察する場合の2条件を設けて表情模倣の生起を調べ、他者感情を理解する必要性が異なる状況において表情模倣の生起に差があるかどうかを検証した。刺激には7種類の表情をモーフィング動画で呈示し、測定にはfacial EMGを用いた。その結果、一部の表情で表情模倣が確認されたが、内外集団の効果は見られなかった。しかし、実験の過程で他者感情の理解を促すことが表情模倣の生起と関係していることが示唆された。さらに、この点を検証するため他者感情の理解を促す場合と促さない場合で表情模倣の程度の差を調べる実験の結果もあわせて報告された。 |
発表 2: 間山ことみ・石井敬子
「表情変化の判断に関する日米比較研究」
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洋の東西においてはコミュニケーション様式に差異があることが知られている。西洋においては、情報伝達の主な経路は言語内容そのものであるのに対し、東洋においては情報伝達の経路として、文脈的手がかりが果たす役割が相対的に大きい(Hall, 1976; Scollon & Scollon, 1995)。本研究では、ある表情(幸せ・悲しみ)が中性的な表情に変化していく場合の、最初に示していた感情が消えたと判断する速さについて日米で比較実験を行い、表情変化の認識の仕方においても、このような文化差が存在するのかどうかを検討した。その結果、アメリカ人は、表情の種類による判断の速さに違いは見られなかったのに対し、日本人は、悲しみが消えていく場合の判断は、幸せが消えていく場合の判断よりも遅かった。つまり日本人は、より長い時間、悲しみを見積もっておく傾向が強く、悲しみ感情の判断に対して、非常に慎重であることを示唆している。この傾向は、他者との情緒的つながりを重視する日本文化で生きていく上で必要な対人的スキルの反映として解釈されるだろう。 |
発表 3: 佐藤弥
「表情と視線の交互作用:心理学と神経科学の知見」
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表情と視線は、どちらも表出者の一時的状態を表現し、日常のコミュニケーションでは有機的に組み合わされている。しかし、これらの情報を統合的に解読処理する心理・神経メカニズムは、よく分かっていない。この問題を検討するため、心理実験およびfMRI実験を行った。心理実験の結果、基本情動の表情に対する情動認識および情動喚起は、視線方向の影響を受け、そのパタンは表情の情動カテゴリによって異なることが示された。fMRI実験の結果、怒りや幸福の表情の処理において、扁桃体などいくつかの脳部位の活動が、視線方向の影響を受けることが示された。こうした結果は、表情と視線を統合的に処理する認知神経メカニズムを示唆する。
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発表 4: 魚野翔太
「表情が視線による注意シフトに与える影響-定型発達者とアスペルガー障害における検討-」
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他者の視線方向や表情の素早い処理は円滑なコミュニケーションのために重要である。他者の視線は知覚者の自動的な注意シフトを引き起こすことが示されている。中性表情の視線と比較して情動的表情の視線はその対象の情報を多く含んでいる。そのため、情動的表情の視線による注意効果はより大きくなると考えられる。今回の発表では、静的および動的な情動的表情が視線による注意シフトに与える影響、および対人相互作用の障害を持つアスペルガー障害での実験の途中経過を報告した。
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