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第1回国際シンポジウム

“Evolution and the Sociality of Mind”

※本ワークショップは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校進化心理学センター、特定領域研究「実験社会科学―実験が切り開く21世紀の社会科学」 との共催で行われました。

日時: 2008年2月23日、24日 午前9時~午後8時

場所: University Center (UCEN), Fliying A Studio (カリフォルニア大学サンタバーバラ校)

話者:
1日目:
高橋泰城 (北海道大学)
Andy Delton and Max Krasnow (University of California, Santa Barbara)
John Tooby (University of California, Santa Barbara)
Aaron Sell (University of California, Santa Barbara)
品田瑞穂 (北海道大学)
Daniel Sznycer (University of California, Santa Barbara)
亀田達也 (北海道大学)

2日目:
Dave Pietraszewski (University of California, Santa Barbara)
横田晋大 (北海道大学)
Mike Gurven (University of California, Santa Barbara)
竹村幸祐 (北海道大学)
Chris VonRueden (University of California, Santa Barbara)
真島理恵 (北海道大学)
結城雅樹 (北海道大学)

Keynote Address
山岸俊男 (北海道大学)

参加者:
UCSB: John Tooby, Leda Cosmides, Steven Gaulin, Will Lassek, Daniel Sznycer, Aldo Cimino, Carolyn Hodges, Rose McDermott, Julian Lim, Sangin Kim, Eyal Aharoni, Aaron Sell, Annie Wertz, David Pietraszewski, Elsa Ermer, Max Krasnow, Danielle Truxaw, Chris von Rueden, Zach Simmons, Michael Gurven, James Roney, Bianca Lippert, Aaron W. Lukaszewski, Andy Delton, Tess Robertson, Christina Larson, Brandy Burkett, June Betancourt, Kate Hanson Sobraske, Mike Mrazek, Alex Schwartz, Eric Schniter, Jelle De Schrijver, Tamsin German, Heejung Kim, Rose McDermott.
北大: 山岸俊男、亀田達也、結城雅樹、高橋伸幸、石井敬子、高橋泰城、高篠仁奈、品田瑞穂、真島理恵、谷田林士、横田晋大、竹村幸祐、高橋知里、石橋伸恵、犬飼佳吾、三船恒裕、Joanna Schug、佐藤剛介、高岸治人、堀田結孝、橋本博文: 計 約60名

スケジュール&内容:

2月23日(土)
9:00 - 9:30  発表 1: 高橋泰城
“Neuroeconomics of Intertemporal and Probabilistic Choice”


神経経済学は、生物学的なアプローチを用いて人間の非合理性を理解しようとする学問である。そのトピックの1つが、時間割引率の不整合性(時間経過による選好の逆転現象)である。双曲割引の神経調整、中毒と双曲割引、双曲割引の精神物理学、リスクの下での意思決定と双曲割引などに関するこれまでの知見を紹介し、それらの経済政策や進化理論に対するインプリケーションを示した。


9:30 - 10:00  発表 2: Andy Delton and Max Krasnow
“A Cue-Theoretic Approach to Cooperation”


人々の協力行動は、血縁、直接互酬性、評判維持に基づいていると言われているが、しかしこうした要因のみでは一回限りの実験的な状況における協力行動を説明することはできない。この点を説明するために、近年、文化的・遺伝的な集団選択によるモデルが提案されてきている。本研究では、一回限りの状況と、繰り返しの状況を区別するシグナルが確率的に表れるような場合を想定し、エージェントはたとえ一回限りの状況であるとわかっていても、直接互酬性に基づき協力することをシミュレーションにより示した。

 

10:30 - 11:00  休憩

11:00 - 12:10  発表 3: John Tooby and Leda Cosmides
“Towards Constructing a Computational and Adaptationist Approach to Human Motivation: The Case of Kin Detection, Family-directed Altruism, and Incest Avoidance”


動機づけに関して、これまで動因低減説や条件付け理論、選好、目標追求モデルなどさまざまなアプローチが採用されてきたが、その現象を広範に説明するためには、より包括的で計量的、明示的な理論へと根本的に変えていくことが必要である。近年、我々は、動機に関する新しい理論的な枠組みの構築を試みている。本報告では、動機づけには、さまざまな内的な規制変数(IRVs, internal regulatory variables)を計算するために進化したいくつかのメカニズムが関わっていることを示した。例えば、IRVの一つに、個人の厚生水準と他者の厚生水準に同時に影響を与えるような行動を規制する要素として、厚生トレードオフ率(WTR, welfare trade-off ratio)がある。また、脳が遺伝的に関係のある人を見分ける際に利用する、親族指標(KI, kinship index)もその一つの例である。一連のIRVsとそれを計算するメカニズムは、実際の状況や潜在的な状況での意味や価値の判断、目標設定、競合する価値間のトレードオフについて評価するような時に活用される。そしてそのような計算メカニズムは、感情の適応論的なデザイン(怒りや罪の意識、恥、感謝などの計算可能な要素)と共進化してきた。本報告では、一例として、血縁関係の検知とその動機づけに関する構造について説明した。

12:10 - 13:30  昼食休憩

13:30 - 14:00  発表 4: Aaron Sell
“The Computational Structure of Human Anger”


怒りについて、これまで進化的なアプローチによる理論的な説明は十分にされてきていなかった。しかし、怒りは、厚生トレードオフ率(WTR, welfare trade-off ratio、他者が自分の厚生水準を自身のものと比較してどれほど評価しているかという程度)を調整する適応的な機能を有していると解釈することは可能である。本報告では、この観点に基づく、費用負担に由来する怒りや、侮辱への反応としての怒り、怒りによる口論のデザイン、怒りの表情、怒りの声、暴力的な攻撃と謝罪・正当化の原理などの特徴に対し、説明を加えた。

14:00 - 14:30  発表 5: 品田瑞穂
“Punishing Free-riders: Direct and Indirect Promotion of Cooperation”


罰によって協力行動が促進することは知られているが、その効果は、直接的なものと間接的なものに分けられる。直接的な効果とは、協力と非協力のインセンティブを変えて、協力を選ぶことが合理的であるようにするものであるのに対し、間接的な効果は、条件付き協力者に対し他のメンバーも協力するだろうという期待を持たせるように、協力に必要な条件を与えるものである。本報告では、2種類の条件下で行った一回限りのn人囚人のジレンマゲームについて、罰の間接効果が直接効果を補完することを実証した。さらに、ゲーム参加者による自発的な罰でも、実験実施者による外生的な罰でも、直接・間接効果は有効であることを示した。

14:30 - 15:00  発表 6: Daniel Sznycer
“Recalibrational Emotions and Welfare Tradeoff Ratios”


費用便益のトレードオフを適応的に最適化することで、厚生トレードオフ率 (WTR) は選択されてきた。本研究で扱うのは、特定の感情とは、ある出来事に対して予測可能なやり方でWTRを再測定するように構成されてきているという理論である。具体的には、ターゲットに特異的なWTRは、怒りが喚起される状況では下方に、罪や感謝が喚起される状況では上方に調整されると考えられる。そしてアルゼンチンの大学生に対し、仮想状況を用いて、便益をもたらすような動機と費用を生じるような動機を測定したところ、怒り、罪、感謝におけるそのような再測定理論を支持する結果が得られた。

15:00 - 15:30  休憩

15:30 - 16:40  発表 7: 亀田達也
“"To eat or not to be eaten?": Collective Risk-monitoring in Human Groups”


動物が捕食のリスクに直面しながら餌探しをしなければならないように、人間も同様にこれまで、物質的・精神的な資源を食糧獲得行動とリスク監視行動との間で配分しなければならない状況に直面してきた。本研究では、グループ状況のゲーム理論的な側面により、資源配分のトレードオフの決定が複雑なものになり、結果的に集団内で混合均衡が生じるだろうと予測した。混合均衡に至ると、メンバーの一部のみがリスク監視活動に従事し、他のメンバーはただ乗りをして自身の食糧獲得に専念することになる。実験では、低いリスクのもとで食糧獲得に従事する集団の行動は、この予測を支持した。しかしリスク水準が高くなるにつれ、このような均衡の生起は一種の「群れ行動」に干渉された。また発表では、監視行動をした人間とただ乗りをした人間との間の共感性の個人差についても議論された。

17:30  ポスター発表
石井敬子
“Outgroup Homogeneity Effect in Perception: An Examination in Japan and the US”
高篠仁奈
“Effect of Altruism and Trust on Quasi-Credit: Field Experiments in Central Java”
谷田林士
“Cooperation in the one-shot Prisoner’s Dilemma Game: Allocation of Attention to the Payoff Matrix”
高橋知里
“Trust and Reciprocity in the Trust Game: A “Joint-cultural” Experiment in Japan, China, and Taiwan”
三船恒裕
“Is Male More Competitive Towards the Outgroup than Female? The Sex Difference of Ingroup Bias”
石橋伸恵
“Behavioral Assortment in Group Tasks: How do People React to Social-frequency Information in a Group Task with a Marginally-diminishing Return Curve?”
犬飼佳吾
“Decisions Under Ambiguity: Effects of Sign and Magnitude”
高岸治人
“The Role of Intentions in Third-party Punishment”
佐藤剛介
“The “Openness” of a Society Determines the Relationship between Self-esteem and Subjective Well-being: A Cross-societal Comparison”
Joanna Schug
“Self-disclosure as a Relationship-strengthening Strategy Adaptive to Mobile Societies”
堀田結孝
“Inequity Enhancing Rejection of Unfair Offers: Reasons for Rejection in the Ultimatum Game”
橋本博文
“Default Adaptive Strategies as a Form of Error Management”
Brandy N. Burkett, Leda Cosmides, John Tooby, & Christina Larson
“Jealousy, Friendship and the Banker’s Paradox”
Eric Schniter
“Culture Across the Lifespan: the Distribution and Ontogeny of Essential Tsimane’ Cultural Skills and Abilities”
William D. Lassek, & Steven J.C. Gaulin
“The Effect of the Type of Dietary Fatty Acids on Body Mass and Cognition”
Tess Robertson
“Emotions Coordinate Responses to Different Exclusions: Evidence for Distinct Exclusion-response Mechanisms”
Carolyn Hodges
“Dominance and Attractiveness Depend on Different Parameters in Men’s Voices: The Relative Roles of Mean Pitch and Pitch Variation”
Aaron W. Lukaszewski, Zachary L. Simmons, & James R. Roney
“Rapid Endocrine Responses of Young Men to Social Interactions with Young Women”
Elsa Ermer
“Relative Status Regulates Risky Decision-making about Resources in Men: Evidence for the Co-evolution of Motivation and Cognition”
Annie E. Wertz & Tamsin C. German
“Core Principles in the Explanation of Behavior: Actions Speak Louder than Words”

2月24日(日)
9:30 - 10:00  発表 1: Dave Pietraszewski
“Ancestral Conditions Make Modern Day Predictions: Sex, Race, Coalitions & Accent”


言語習得の知見によれば、音のレパートリーは地域特有であり、思春期ごろにおおまかに形成されることを示している。したがって、共有されるアクセントは同じ言語コミュニティで育ったことを示す特徴となる。そしてその規則性を保ったまま、言語コミュニティ間での移動や協調が広がっていき、さらには共通の社会的起源を追跡していくことに何らかの利益があったとすれば、それに見合った形で人間の認知構造は形成されてきたと考えられる。実際、集団が連携し合うとき、それによって人種に関するキューは軽視される一方、性別やアクセントは集団の特徴をなすものとして、依然としてそれに注意が払われやすいことがわかった。

10:00 - 10:30 発表 2: 横田晋大
“Adaptive Psychological Mechanisms to Various Types of Intergroup Threats”


先行研究によれば、男性の内集団ひいきは、集団間競争に関わる心理メカニズムから生じるのに対し、女性の内集団ひいきは、外集団メンバーから内集団に見知らぬ病気が持ち込まれ混入する脅威に関わる心理メカニズムから生じることが示唆される。そこで最小条件集団状況におけるこのような性差を検討したところ、男性参加者に集団間の争いを提示した時のみにおいて、内集団ひいきが観察された。次に、混入の脅威に関するキューを操作し、同様に内集団ひいきの程度に性差が生じるがどうか検討したところ、この場合には予測と反し性差は見られなかった。発表では、この実験の潜在的な問題について議論された。

10:30 - 11:00  休憩

11:00 - 12:10 発表 3: Mike Gurven
“Cooperation Among Hunter-Gatherers”


狩猟採集経済では、広範な社会関係とグループメンバーの間での暗黙の社会的な契約が必要とされる。この点を踏まえて、発表では、小規模な社会における食糧の分け合いと協力行動について、進化的な側面から説明を試み、生産と分配を別々の現象と見た場合には正しく理解されないのか、その理由について議論した。さらに、社会規範が潜在的な利害の不一致を解決する上で重要な役割を果たしていることや、分け合いを決定する背景にある社会的な心理プロセスについても言及された。

12:10 - 13:30  昼食休憩

13:30 - 14:00  発表 4: 竹村幸祐
“On the Default Assumption of Monitoring and Sanctioning Behind Japanese Collectivism: A View from the Social Institutional Analysis and Error Management Theory”


山岸らの先行研究は、日本社会では集団レベルでの監視や懲罰のシステム(GMS)が一般的であり、GMSの存在が確実でない時でもその存在を想定する方が安全であるため、日本人はデフォルト戦略として集団内メンバーと協力することを示唆している。本研究では、日本と米国において公共財ゲーム実験を実施し、GMSはないとはっきり認識できる状況とそれが曖昧な状況における協力行動について注目した。結果は、内集団への帰属意識が強い日本人において、GMSなし条件下ではそうでない時よりも有意に協力行動が低下したのに対し、帰属意識の弱い日本人やアメリカ人においては、条件操作に関わらず協力の程度は変化しなかった。

14:00 - 14:30 発表 5: Chris VonRueden
“Health and Fertility Correlates of Male Social Status among the Tsimane of Bolivia”


個人間の協力に関する評判の差異は、近年の集団行動の進化モデルにおいて重要であるが、ただしこれまで、懲罰、監視などにかかる費用や、集団プロジェクトにより期待されるさまざまな利益については、あまり考慮されてきていない。本研究では、ボリビアのTsimane の狩猟採集社会において、対個人・対集団関係の両方において、どのような特質が社会的な影響力と関連しているか調査し、その結果を報告した。そして身体的なサイズ、性格特徴、技能、資産、社会的な支援に加えて、生産力や健康状態が社会的な影響力を持つことが示唆された。

14:30 - 15:00 発表 6: 真島理恵
“How Do We Treat Givers to Free-Riders in Indirect Reciprocity Settings? An Experimental Study to Examine Strategies in Indirect Reciprocity Settings”


近年の理論的研究では、間接互恵性の成立させる鍵として、一次情報(他者の以前の行動)のみならず、二次情報(他者の以前の行動がどのような人に対するものであったのか)を用いた選別的利他行動が提唱されている。本研究では、間接互恵性での選別的行動パターンを測定する実験を行った。結果は、参加者は一次情報のみならず、前回の提供者により多く提供するだけでなく、提供者への提供者により多く提供するというように、二次情報も利用していることを示した。つまり間接互恵性の成立させる鍵は、フリーライダーを排除するだけでなく、フリーライダーを助ける提供者も区別することにあると言える。

 

15:00 - 15:30  休憩

15:30 - 16:40  発表 7: 結城雅樹
“The "Openness" of a Society Determines the Relationship between Self-Esteem and Subjective Well-Being: A View from the Socio-Ecological Perspective”


これまでの研究により、自尊心が主観的幸福感に与える影響は、一般的に東アジアよりも北米で高いことが示されている。そしてこの差は、これまで文化的自己観の差異によって説明されてきた。しかしながら本研究では、関係流動性という、必要に応じて新しい関係を形成する機会の多さを反映する社会生態学的な要因の観点から、この差異をより論理的に説明することを試みた。具体的には、米国のような関係流動性の高い社会では、個人間の開かれた市場があり、人々はより良い関係を形成する相手を探すことができる。この競争的な市場では、自尊心あるいはその人の市場価値は、望ましい関係を作ることができるかのインディケーターとして機能し、それ故にそれは主観的幸福感と強く結びついているだろう。一方、東アジアのような関係流動性の低い社会では、関係が固定的で安定的なため、自身の市場価値はそのように機能しにくい。そしてさまざまな方法を組み合わせた複数の実験より、関係流動性の高い社会では、自尊心と主観的幸福感との間に強い相関があるという結果が示された。

16:40 休憩

18:00 ディナー

19:30 Keynote Address: 山岸俊男
“In-group Favoring Behavior as a Reputation Device”



一般交換とは、大規模な協力行動の維持を可能にする、人間に特有の方法である。一般交換システムでは、各個人が一方的に資源をシステム内の誰かに与え、受益者から直接的に報酬を得ることはない。さらに、与えたものだけが他者から資源を受け取ることができる。このシステムでは、条件付きの利他主義者となり、与えた者に対してだけ与えるという戦略が唯一実行可能である。したがって、個人の評判は、一般交換を成立し維持させるために決定的な役割を果たす。個人は、他のメンバーから資源を得るためには、「責任のある」メンバーであるという評判を持たなければならない。本報告では、一連の最小集団実験の結果に基づき、グループメンバーを好意的に扱うことが、その人のグループ内での評判を高める戦略となることを示した。

 

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