21世紀COE 「心の文化・生態学的基盤に関する研究拠点」
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21世紀COE 「心の文化・生態学的基盤に関する研究拠点」 概要



21世紀COE 研究拠点形成に向けて

北海道大学文学研究科教授 山岸 俊男

昨年(平成14年)の秋に、私どもがかねてより準備を進めてまいりました「心の文化・生態学的基盤」に関する拠点形成計画が、21世紀COEプログラムとして採択されました。そして本年4月には、実験研究のための施設を北海道大学人文・社会科学総合教育研究棟6階に完成させ、本格的な実験研究を開始しています。

私たちのCEFOM/21 (Center for the Study of Cultural and Ecological Foundations of the Mind, a 21st Century Center of Excellence)は、平成14年度に採択された人文科学分野における全国で20のCOE研究拠点の中でも、いくつかの点で特徴があると考えています。なかでもCEFOM/21の最大の特徴は、その尖鋭さです。私たちは、いわゆる「・・・の総合的理解」といった総花的な研究・教育のあり方を求めるのではなく、変革期にある人間・社会科学の今後50年の方向を定めることになると考えられる最も深く困難な問題――人間の社会を可能としている心のメカニズムの解明――を正面からとりあげ、それらの問題に全力を集中するという研究戦略をとっています。20世紀後半を支配した社会科学におけるタブラ・ラサの神話が崩壊しつつある現在、科学的な研究成果にもとづく新たな人間観の構築こそが、これから生まれる新たな社会科学にいま最も強く求められているものなのです。この新たな科学的人間観構築のために必要とされる科学的な基礎データを提供する――このことが、私たちがCEFOM/21での研究を通して実現しようとめざしていることなのです。

プロジェクトが完了する予定の2007年春までに、私たちCEFOM/21の研究成果が世界中の様々な分野の研究者の研究の方向に大きな影響を与えることができれば、本プロジェクトは成功したと言うことができるでしょう。もちろんこの目標の達成は、私たちCEFOM/21のメンバーだけでできるものではありません。他の研究者からのご批判、ご指導なくしては、この目標達成は不可能です。皆様方からのご批判、ご指導を切にお願い申し上げます。



心の社会性――いま、なぜ?

心の社会性は、古くて新しい研究テーマです。これまで何度も、心理学をはじめ、いろいろな学問分野でとりあげられてきました。それなのに、なぜいま“心の社会性”なのでしょうか。いまさらそんな古色蒼然とした研究テーマを追究しても、何も新しいことは得られないのではないのではないでしょうか。

私たちは、そうは考えていません。そのように考えない理由のひとつは、社会科学における実験研究の本格的な導入が、この問いの意味を全く変えてしまったからです。20世紀後半の社会科学は白紙の心(タブララサ)の神話に縛られ、長い間停滞を続けてきました。人間は白紙の心をもって生まれ、その後、文化を内面化することで人間としての心を獲得するにいたる、だから人間の心は内面化すべき文化の多様性を反映するかたちで、いくらでも多様に変化することができるという神話です。

しかし20世紀も終わりが近づくにつれ、この神話は心理学や認知科学の研究成果によって、ほぼ全面的に否定されるにいたっています。また社会科学においても、昨年ノーベル経済学賞を受賞したバーノン・スミス教授をはじめ、実験経済学、とくに行動実験経済学の研究成果が広く認知されるにつれ、人間の心は無限に可塑的なのではなく、一定のしかたで働くようにできあがっていることが、次第に認識されるようになっています。そして白紙の心(タブララサ)の神話に代わり、人間の身体と同様に人間の心も進化の過程で獲得されてきた適応のための道具であるとする視点が、社会科学の中に浸透し始めています。そして、手の指を勝手に7本にしたり3本にしたりできないように、人間の心も勝手に変えることができないことを前提とした、新しい社会科学の構築を試み始めているのです。この試みは、世界のいくつかの拠点で同時に進行しつつあります。いくつか例を挙げれば、上述のスミス教授が率いるジョージ・メーソン大学、チューリッヒ大学、マックスプランク研究所(ベルリン)、サンタフェ研究所、カリフォルニア大学(UCLA)などが、この新しい動きの拠点です。

これらの先端的研究拠点では、人間が社会を作り出し維持できるのは、人間の心そのものの中に、社会関係の形成を可能とする“しくみ”が進化の過程を通して組み込まれているからだという視点を共有し、その“しくみ”を理解することで、人間の社会の性質を正しく理解し、さらにはその理解を社会の制御のために使う方法を生み出そうと考えているのです。

CEFOM/21も、これらの先端研究拠点と基本的に同じ視点、同様な目的を共有しています。しかしCEFOM/21は、社会を可能とする心の“本質的社会性”の解明を進めると同時に、人間の心は、適応すべき社会的環境そのものを構成しているという事実の重要性を強調する点で、上述の先端研究拠点と一線を画す独自の研究目標を持っている点に特徴があります。そして、その目標に向けて、異なった文化的背景を持つ人たちが相互作用を行う中で、@どのような社会制度が生まれ、Aその社会制度の制約の中で相互作用を行うことで心の性質がどのように変化し、Bその変化が社会制度の変化にどのように反映するかをしらべるための、インターネットを介した国際共同実験の中心的拠点としての役割を確立しつつある点も、他の研究拠点にはないCEFOM/21の特徴なのです。


心と社会のマイクロマクロ・ダイナミックス



過去10年間に、人間・社会科学は急速に新しい展開を開始しました。2002年度のノーベル経済学賞を、行動経済学の生みの親の一人である心理学者ダニエル・カーネマンと、実験経済学の中心的担い手であり、進化的基盤にもとづく心の制約を経済学の観点から探求するバーノン・スミスが受賞したことは、この新しい展開のひとつの表れだと言えます。

人間・社会科学のこの新しい潮流は、

  1. 認知科学における第2の認知革命(認知の本質的社会性に対する洞察の広がり)
  2. 心理学における進化的観点の受容
  3. 経済学、政治学等の社会諸科学における実験研究の本格的な確立
  4. 進化ゲーム理論を共通言語とした進化生物学と認知科学及び社会諸科学との相互交流の開始

以上のかたちをとりつつ、人間・社会科学全体の融合に向かいつつあります。そしてこの人間・社会科学統合への流れを生み出した原動力のひとつは、人間・社会科学の様々な分野で“心の本質的社会性”、すなわち、人間の“心”が社会的環境への適応の道具であるという事実が明らかにされたことにあります。

我々は、この新しい潮流の先頭に立ち、人間と社会・文化についての新しい理解を生み出す、国際研究教育拠点の形成をめざしています。本拠点は、そのための国際的な研究拠点として機能すると同時に、来るべき人間・社会統合科学の担い手の育成をめざすものです。本拠点の特徴は“心の本質的社会性”という、上述の潮流の中でも最も先鋭的な問題に特化した研究と教育を行うことで、国際的な研究全体をリードし、新たなパラダイムを生み出すことを最重点の課題としている点にあります。



研究紹介


CEFOM/21では、以下の4つの研究テーマ別にプロジェクト・グループを作り、グループ間で連携を取りながら、“心の本質的社会性”の解明という目標の達成を目指しています。

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