心が環境、特に社会的環境への適応の道具であるという観点から見れば、これまで文化心理学者が扱ってきた心の文化差の原因は、それぞれの文化において生み出され維持されている社会的適応課題の違いに求められることになります。例えば他者の行動予測という、最も基本的な社会的適応課題の達成にさいして、対象としての特定の他者の特性に多く注意を配分すべきか、あるいはその対象をとりまくまわりの環境に多くの注意を配分すべきかは、他者の行動がどの程度まわりの社会的環境によって拘束されているかにより異なってくるでしょう。この観点からは、個人主義文化を身につけている人間が対象に注意を集中し、行動の原因を対象の内部に求める傾向が強いのに対して、集団主義的文化を身につけている人間が対象を取り巻く環境に注意を振り向け、行動の原因を対象の内部に求める傾向が弱いという文化心理学の知見は、それぞれの文化において個人の行動が社会的環境によって拘束されている程度の違いを反映していると解釈されることになります。CEFOM/21では、社会的適応課題の中でも特に他者の行動予測と、他者との間の協力関係の形成という2つの基本的な課題に焦点を絞り、異なった社会関係のもとで、いくつかの異なった注意の配分戦略と意思決定戦略の組み合わせが適応的となり、また人々によって採用されるに至ることを示すための一連の実験が計画されています。2002年度に実施された実験では、この点に関してすでに興味深い結果が得られています。
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