4つめの研究プロジェクトは、心と社会ないし文化との間のダイナミックな関係の解明のための理論的枠組みを作り出すことを目標としています。そのための足がかりとして、まず、実験室の中に“集団主義的”社会制度ないし“個人主義的”社会制度を伴う商品取引市場を設定し、特定の社会制度のもとで特定の形態の社会的適応課題を実験参加者に経験させることで、特定の心の働きが顕在化することを示す一連の実験研究を実施します。2002年度に実施された予備実験研究の結果は、文化心理学者によりギリシャ文明に由来するとされる“個人主義的”な心の働きである“分析的思考”と、古代中国文明に由来するとされる“集団主義的”な心の働きである“全体論的思考”の違いが、取引実験への数時間の参加経験によって生み出されることを示しています。この点は社会的環境への適応の道具である社会的知性の違いとして心の文化差を理解するという、2番目の研究プロジェクトと共通する部分ですが、本研究プロジェクトはこの理解を超え、さらに、そこで生み出された心の働きの違いが、異なった社会制度の成立を促進し、そのことを通して異なった社会的適応課題を生み出すことを、実験研究とコンピュータ・シミュレーション研究によって明らかにすることをめざしています。このプロジェクトの成果は、心と文化との関係が、現実の社会制度によって媒介されていることを明らかにしてくれるはずです。本研究プロジェクトでは、日本人の実験参加者と外国人参加者がインターネットを介して同時に実験に参加する、国際共同実験が重要な役割をはたすことが期待されています。
概要TOP | 社会を作る心 | 適応の道具としての心
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