Seminar

論文紹介・研究相談会(山田・馬場)

Parental olfactory experience influences behavior and neural structure in subsequent generations.
(親の嗅覚経験が子孫世代の行動・神経構造に影響を与える)
Dias, B. G., & Ressler, K. J. (2013).
Nature Neuroscience, 17(1), 89–96.

嗅覚の分子特異性を用いて、親のトラウマ経験が遺伝することを検証した。第1世代のネズミ (F0) に匂いに対する恐怖条件付けを行った結果、第2世代 (F1)、第3世代 (F2: 孫世代) で、F0に条件付けした匂いに対する刺激特異的な行動感作が見られた。F0マウスに用いた条件付けに使ったアセトアミノフェンの匂いがOlfr151嗅覚受容体を活性化させると、F1・F2世代におけるOlfr151経路の神経解剖学的表象が促進され、アセトアミノフェンへの行動感作が完全なものになった。F0とF1オスの精液のDNAを採取し塩基配列を解読したところ、Olf151遺伝子におけるCpGの低メチル化が見られた。さらに、体外受精によりF2の遺伝と育ちを区別した結果、これらの世代間伝達の効果は、親の生殖細胞によって遺伝したものであることが示された。本研究の結果は環境情報が世代間を通じ、行動、神経解剖学、そしてエピジェネティックレベルでどのように遺伝するかというフレームワークを与えるものである。(山田)

Horses discriminate between facial expressions of conspecifics.
(ウマは同種の顔の感情を区別する)
Wathan, L. Proops, K. Grounds & K. McComb (2016). 
Scientific Reports, 6, 38322.

 ヒトにおいて、顔の感情は社会的情報に富んだ情報源であり、社会的相互作用を統制する重要な役割を果たしている。しかし、ヒト以外の動物、特に霊長類以外の動物においてこれがどの程度当てはまるのかについては大部分が知られていない。それゆえ、本研究では、家畜化されたウマ (Equus caballus) が異なる文脈下での同種の顔の感情を区別できるのか、また、これらの感情を見ることは機能的に適切な反応を引きだすのかどうかを検討した。ウマは、ポジティブな注意またはリラックスと関連した顔の感情を示す刺激により近づき、攻撃と関連した顔の感情を示す刺激をより回避する傾向にあった。さらに、ポジティブな予測を見たときと、反発的な顔の感情を見たときの反応の間に異なった心拍数の変化パターンが見られた。これらの結果は、ウマが自発的に、知らない同種の、異なる顔の感情を表現した写真を区別し、適切な行動的・心理的反応を見せることを示唆した。それゆえに、霊長類の系統から遠く離れているウマも、社会的情報を得る手段や潜在的に社会的相互作用を統制する手段として顔の感情を利用する能力があるといえる。(馬場)

開講日 | 2017年07月12日 14:45-18:00 場所 | E304