論文紹介・研究相談会(上田・山口)
Macaques can predict social outcomes from facial expressions
(マカク属は顔の表情から社会的結果を予測できる)
Waller, B. M., Whitehouse, J., & Micheletta, J. (2016).
Animal Cognition, 19(5), 1031–1036.
顔の表情が社会的相互作用において役に立つことは広く受け入れられているが、これらの適応的機能の実証的な証拠は依然としてわかっていない。本実験では、マカク属が社会的相互作用の未来の結果を予測するために他個体の表情を利用することができるかどうかを調べた。クロザル(Macaca nigra)に、タッチスクリーン上で見知らぬ2個体が接近する様子を見せ、2つの潜在的な社会的結果のうち1つを選択させた。行為者の表情は動画の最後のフレームで操作された。1頭の被験個体が実験段階に到達し、行為者がどの表情を見せたかによって、正確に異なる社会的結果を予測した。歯をむき出しにするディスプレイ(ヒトの笑顔と相同)は、予測された親和的な結果と最も強く関連付けられた。予測に反して、叫び声をあげる顔と恐れを表す顔は、争いの結果とはあまり関連付けられなかった。全体的にみてどの表情の呈示も(ニュートラルと比較して)被験個体にネガティブな結果よりも親和的な結果を選ばせた。したがって概して表情は、社会的葛藤の可能性を減らすということが示された。この結果は、表情はその時点で生起している情動だけを示すものとみなす従来の説に異議を唱え、そのかわり、表情は個人が現在を越えて考える複雑な社会的インタラクションの一部を形成することを示唆する。(上田)
北海道和種繁殖母馬のヒト許容距離と子馬のヒト許容距離の関係
(北海道大学 大学院農学研究院 生物資源科学専攻 納多春佳 H27年度修士論文)
ウマは古くから世界中で広く使役家畜として利用されており、より使役に適したウマ、つまりは人間に対する受容性が高く、人間との間に信頼関係を築ける個体が求められる。ウマの人間に対する受容性を測定し、定量化できるものとして、個体それぞれの社会空間があげられる。逃走距離(Flight distance : FD)は、ウマの親和性を示す距離であり、人間との接触を経験することで変化する。本研究では、人間に対する受容性の指標としてFDを用い、哺乳期間中から離乳後までの母子それぞれのFDを測定し、個体の行動特性と人間に対する受容性との関係を調べた。静内研究牧場の繁殖母子群の計96頭(48ペア)を被験体として、約6か月間の実験を2回行った。測定者と観察個体間の距離は距離計で測定した。また測定者が1歩ずつ観察個体へ近づき、観察個体が逃避反応を示す地点までの歩数を測定した。この測定者から観察個体までの距離から、逃避反応を示した地点までの歩数×歩幅で示される距離を引いて求められるものをFDと定めた。すると、離乳前および離乳後における母馬と子馬のFDの間には正の相関があり、FDに応じて受容性の高さを比較すると、母馬の人間に対する受容性は、子馬の人間に対する受容性に影響を与えることが示された。また、離乳とそれにともなう人間の接触により子馬のFDは小さくなることが分かった。このことから、3週間の人間による飼養管理が子馬の人間に対する受容性を高めた可能性が示唆された。(山口)
開講日 | 2017年07月05日 14:45-18:00 場所 | E304