助け合いを支える心理メカニズムの進化・発達
ヒトは困っている人を見ると、見知らぬ人をであってもつい手を差しのべたくなります。そのような向社会行動(他者の利益になる行動)は、どのような認知・感情に支えられて進化してきたのでしょうか。
私たちは、個体差に着目することで、向社会行動を支える心理メカニズムの解明を目指しています。具体的には、まず、対象動物の個体のプロフィール情報を観察・実験研究から収集します。その結果と向社会行動の特性との関連を調べることで、どのような認知・感情特性を持つ個体が向社会的なのか、さらにはどのような向社会行動を得意とするのか、を詳細に把握することができます。また、その発達過程を調べれば、どのような認知・感情特性が向社会行動を支えているのか、逆に、向社会性を身につけることでどんな認知・感情特性の発達が促されるのか、その因果関係をも明らかにすることができます。これまではフサオマキザルやウマを中心に研究を進めてきましたが、共同研究によって、徐々に対象種を広げていきたいと考えています。
伴侶動物(特にウマ)における社会的絆形成の進化・発達
伴侶動物のもつ意義は、ストレス社会の中で年々大きくなってきており、彼らとわれわれヒトとの絆もより密接に結ばれるようになってきています。体の大きさも構造もずいぶん異なる種間の双方向のコミュニケーションを成立させ、強く優しい絆を育むのに役立っているのは、どのようなシグナルなのでしょうか。
私たちは、伴侶動物の一種であるウマを対象に、対ヒト・対同種他個体コミュニケーション能力を比較することで、ウマがもともと同種他個体との間で用いてきた社会的認知能力をヒトとのコミュニケーションにどう生かしているのか、またヒトとのコミュニケーションにおいて特有に発達した感受性は何か、を調べます。また、遺伝子多型との関連や生育環境(母親との関係性も含む)・品種の影響・発達過程をも考慮することで、彼らのコミュニケーション能力がどのような遺伝的基盤を持ち、どのような環境との相互作用によってもたらされ、育まれるのかをも明らかにします。こちらの研究は臨床応用への展開も期待されます。
List of Thesis supervised
博士論文/Dissertation
なし
修士論文/Master Thesis
2018
- 川瀬茉里奈:ヒトにおけるイヌの情動のマルチモーダル知覚
- 馬場千尋:ウマにおける社会的緩衝作用の実験的検討―同種他個体及びヒトの存在はウマのストレスを和らげるのか―
2019
- 上田江里子:ヒトとウマにおける行動同期―歩行場面に着目した探索的検討―
- 鎌谷美希:ウマは同齢の同種他個体に視覚的選好を示すか―類似性の原則に着目した実験的検討-
2022
- 和田知里:ウマ母子間のコンタクトコールの使い分け―行動観察と音響解析による検討-
卒業論文/Bachelor Thesis
2016
- 佐藤礼奈:ウマにおけるヒトのあくびの伝染 ―親密さバイアスと生理反応に着目して―
- 田中未菜:仔ウマの社会関係の構築に関する観察研究 ―母ウマの親和的社会交渉が与える影響に着目して―
- 野村早紀:ウマは働いて得る餌を好む? ―コントラフリーローディングに関する実験的検討―
- 馬場千尋:ウマはヒトの感情シグナルに敏感か? ―視線追従課題を用いた実験的検討―
2017
- 上田江里子:ウマにヒトの情動は伝染するか?―ヒトが表出した自然な情動を用いた実験的検討―
- 小原 嵐:イヌにおける第三者の社会的評価-イヌはヒト間のやりとりから何を読みとり、好むのか?-
- 谷藤誠斗:母ウマにおける子ウマへの愛着とオピオイド受容体M1遺伝子多型の関連
- 山口晃央:ウマにおけるヒトへの警戒心とドーパミン受容体D4遺伝子多型の関連
2018
- 高倉有梨:ウマにおける社会的緩衝作用を生み出す要因の検討―いななきはストレスを和らげるのか―
- 富所菜々花:ヒトにおけるイヌの表情認知―ヒトは何を手がかりにイヌの表情の情動価を評価するのか?―
- ワイルズ絵文:ウマの社会的絆を支える要因に関する検討―同類志向の原理に着目して―
2019
- 明日香瑞穂:ネコにおけるヒトの情動知覚に関する実験的検討
- 井上真緒:ウマにおける利他行動の実験的検討―食物共有に対する親密さの影響に着目して-
- 山本 誉:群れ構成の変化が仔ウマの社会関係に及ぼす影響の検討
2020
- 小野千絵里:ウマの嫉妬に関する実験的検討
- 戸松太一:ウマにおける母性行動とオピオイドM1受容体遺伝子多型の関連についての再検討
- 和田知里:ウマにおける母子間の音声コミュニケーションに関する検討―子ウマの発達に伴う変化に着目して―
2021
- 吉岡航太郎:母ウマの離乳作業後におけるストレス反応・回復傾向についての検討
2022
- 若生咲帆:飼育下のシンリンオオカミの行動に影響を及ぼす要因の探索的検討-札幌市円山動物園で単独で暮らす高齢個体を対象に―