Seminar

論文紹介(井上・山本)

4年生の井上さんと山本くんが論文紹介してくれました。

Giving is self-rewarding for monkeys. 
「サルにとって他者に与えることは自己利益となる」
de Waal, F. B. M., Leimgruber, K., & Greenberg, A. R. (2008)
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 105, 13685-13689. DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.0807060105  

ヒトにとって手助けや分配は、主に共感によって動機づけられ、満足感を伴うものである。ヒト以外の霊長類において、自己利益のメカニズムが他者への援助を実証するかどうかを調べるため、8頭のフサオマキザル(Cebus apella)を用いて簡単な選択課題をおこなった。パートナーとペアになった被験個体は、自分にしか利益がない「利己的な選択」か、両者が報酬を得られる「向社会的な選択」をおこなった。被験個体は、組織的に振り分けられたパートナーが知っている個体であり 、パートナーを見ることができ、パートナーの報酬が自分と同じであるときに、向社会的な選択をチャンスレベルよりも有意に多くおこなった。向社会的傾向は見知らぬ個体に対して最も低く、血縁個体に対して最も高かったことから、親密さとともに上昇するといえる。フサオマキザルは、向社会的選択の方が、利己的な選択よりもパートナーにとって良いものであると理解していたと示唆される。またパートナーが自分よりも高価値な報酬を得られるような不公平な状況下では、被験個体の向社会的選好は減少した。また、2個体が互いを見ることができないときには、選択は著しく利己的なものになった。したがって、ヒト以外の霊長類において、特定の条件下で他個体に利益を与えることは、満足感を与える喜ばしい行為であるといえるようだ。(井上)

 

Neonatal handling affects durably bonding and social development.
「新生児の取り扱いは強固な絆と社会性の成長に影響を与える」
Henry, S., Richard-Yris, M. A., Tordjman, S., & Hausberger, M. (2009). PLoS ONE4(4), e5216.
DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0005216

  ヒトや大半の哺乳類における新生児期は、母と子の絆や、新生児の新しい環境への適応を支える母子間の強いやり取りによって特徴づけられる。しかし、多くの出産後処置において、ヒトの赤ちゃんは一般的に約一時間にわたって母と分離させられ、激しい取り扱いを経験する。現在、取り扱いおよび新生児の発達に対するその障害の影響はまだ議論されているところであり、さらなる研究が必要である。動物は統制実験のよいモデルとなるため、我々は飼育下のウマを対象にこの問題について調べた。ウマはヒトのように、単胎児・授乳期間の長さ・母子の選択的な絆によって特徴づけられる。仔ウマの出生後の処置も、ヒトの赤ちゃんと同じように激しい取り扱いと母からの分離が含まれる。本研究では、通常の生態環境において、発育初期から青年期までの仔ウマを観察した。母親から分離させられ、出生後1時間取り扱いを受けた「実験仔ウマ」と、出生後何も処置を施さなかった「対照仔ウマ」を比較した。我々の結果は、愛着とその後の社会的能力に対する独特な出生後経験の短期的・長期的な影響を明らかにした。「実験仔ウマ」は、全ての年齢において、母親に対する不安定な愛着(強い依存、遊びがほとんど見られない)や、社会的能力の喪失(社会的撤退、攻撃)を示した。我々は、母子の相互作用、相互作用のタイミング、そして絆と社会的能力との関係の視点から、これらの結果について議論する。我々の結果は、この有蹄動物が興味深い動物モデルになる可能性があることを示唆している。我々の知る限りでは、本研究が、出産直後の介入が絆とそれに続く社会的能力に影響を与えることの最初の証拠である。ヒトと他の動物の両方に関する研究のための新しい方向性を導くだろう。(山本)

開講日 | 2019年07月24日 14:45~18:00 場所 | E304