Seminar

論文紹介(小原・中田)

Bonobos Prefer Individuals that Hinder Others over Those that Help.
「ボノボは他者を助ける個体よりも他者を邪魔する個体を好む」
Krupenye, C., & Hare, B. (2018) Current Biology, 28, 280-286.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.cub.2017.11.061

Krupenyeらは、ボノボ(Pan paniscus)が、他者に対して協力的な個体と邪魔をする個体への選好を調査した。ヒト乳児は、協力的な個体へ選好を示すことがすでに明らかになっている一方で、ボノボは邪魔をする個体へ選好を示した。ヒトに見られる他者を助ける個体への選好は、おそらくヒトの特性に由来するものであろう。また、このようなヒトが示す選好は、ヒト特有の協力的な性質の基礎を構築するうえで、かかせない要素のひとつである。(小原)

Mental template matching is a potential cultural transmission mechanism for New Caledonian crow tool manufacturing traditions.
「Mental template matchingはニューカレドニアカラスの道具制作伝統のための潜在的な文化伝達メカニズムである」
Jelbert, S., Hosking, R., Taylor, A., & Gray, R. (2018). Scientific Reports, 8, 1, 8956.
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-018-27405-1

積み重なった社会的伝統が時間をかけて進歩する場合、累積的文化進化が起こる。人間の累積的文化進化は教育や言語、模倣を含む認知能力の組み合わせによるものだと考えられている。道具を作るニューカレドニアガラス (Corvus moneduloides) は累積的文化が可能かもしれないと考えられるが、模倣能力を示さないことなどから、まだ議論の余地がある。一つの代替仮説は、カラスの道具デザインは “mental template matching” を通して文化的に伝達されているということである。つまり、個体は他個体の道具を使うか観察するかして、特定の道具デザインのmental templateを形成する。そしてこれを自分で作ることで再生産をする(これは鳥の歌学習と類似している)。まず、ニューカレドニアガラスがmental template matchingの認知能力を持っていることをデモンストレートすることで、仮説を支持するための最初の証拠を示す。Novel manufacture paradigmを用いて、カラスはまず自動販売機に紙片を落として報酬を得るように訓練される。その後、特定のサイズ(大きいor小さい)の紙片だけが報酬を引き出すことを学習する。テスト時には、報酬はランダムでテンプレートが示されていなくても、以前報酬を得られていた紙片と近いサイズに紙片を加工していた。この結果はニューカレドニアカラスの道具デザイン伝達を支える認知能力を示す初の証拠かもしれない。(中田)

開講日 | 2018年11月07日 14:45~ 場所 | E304