論文紹介(井上・吉岡)
4年生の井上さんと3年生の吉岡くんが論文紹介をしました。
Tolerant food sharing and reciprocity is precluded by despotism among bonobos but not chimpanzees
「寛容的な食物共有と互恵性は、ボノボにおいては専制的支配によって妨げられるが、チンパンジーにおいてはその限りでない」
Jaeggi, A.V., Stevens, J.M.G. & Van Schaik, C.P. (2010). American Journal of Physical Anthropology, 143, 41–51
https://doi.org/10.1002/ajpa.21288
ヒトにおける寛容的な食物共有(tolerant food sharing)は主に互恵性によって説明できる。一方で、チンパンジーとボノボにおける食物共有は必ずしも互恵性を反映しているとはいえず、異なる支配のスタイルで説明することを要する。(平等主義の社会の中では互恵性がのびのびと拡大した一方、専制的な支配のなかでは互恵性の拡大が妨げられていた可能性がある。)我々はチンパンジーとボノボのグループにおける食物共有に対する互恵性の程度と、専制の影響についてテストを行った。そこから第一に、チンパンジーはボノボよりもより頻繁に、寛容に、そして積極的に食物共有を行うことが分かった。第二に、チンパンジーにおいて、互恵的な交換を示唆するという意味で、食物の受け取りは食物共有の最も有効な予測因子である一方、ボノボの食物譲渡はおおむね一方的なものであったことが判明した。そして第三に、チンパンジーがボノボより専制的支配を行わないことを示唆しているのだが、チンパンジーはヒエラルキーによる支配が希薄であまり直線的でないということが分かった。これはチンパンジーにあってボノボにはない、寛容的で互恵的な共有が専制の欠如を可能にすることを示している。さらなる研究として、我々は5グループ5段階分のデータを用い、グルーミングにおける専制と互恵性の関連を調べた。結果はⅰ)全チンパンジーグループがボノボグループよりもより互恵的にグルーミングを行い、ⅱ)チンパンジーとボノボにおいて、専制的と互恵的グルーミング間で負の相関がみられた。これは平等主義的なヒエラルキーが、少なくとも飼育下では、ボノボよりチンパンジーにおいてよりみられ、そのことによってチンパンジーでは互恵的な食物の交換が促進されている、ということを示唆している。最終的に、希薄は専制的ヒエラルキーは、ヒトに見られるような互恵的な食物共有の進化の必須条件であったと結論付けられる。(井上)
Carrying of dead infants by Japanese macaque (Macaca fuscata) mothers
「ニホンザルの母親による幼児死体の運搬」
Sygiyama, Y., Kurita, H., Matsui, T., Kimoto, S., & Shimomura, T. (2009). Anthropological Science, 117, 113-119.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ase/117/2/117_080919/_pdf/-char/ja
南日本の高崎山のニホンザル(Macaca fuscata)は、24年以上にわたって幼児死体運搬行動の量的研究がなされてきた。そして母親によって運ばれた死んだ幼児の91%は1週間以内に放棄された。母親のどの年齢層もこの行動を示したものの、運搬率(運んだ個体数/死亡してしまった幼児の個体数)も期間も、若い母親と年上の母親の間で有意差は見られなかった。また幼児の性別は決定的な要因ではなかった。観察した症例のうちおおよそ80%が死亡した乳児は生後30日以内であった。死体が運ばれているのが観察された最年長の幼児は253日齢であった。 253日以内に死亡した場合の運搬率は15%、生後30日以内の乳児の場合は28.7%だった。一か月以上生きた乳児の母親は死後間もなく死体を放棄したが、一部の母親は、生きている幼児に対してもこの行動を示した。この正確な理由は現時点では不明である。(吉岡)
開講日 | 2019年11月13日 14:45-18:00 場所 | E304