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研究テーマ

 当研究室では様々な研究を行っていますが、最近行っている主な研究テーマのいくつかを紹介します。

① 情けは人のためならず

一般交換の謎

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 人間関係において、ギブアンドテイクというのはよくあります。しかし、相手に何かをしてあげてもお返しがない場合、人間は他人に親切にはしないのでしょうか? そんなことはありません。見返りが一切なくても、他人に親切にする人がたくさんいることは、直感的にも確かですし、様々なデータもそれを示しています。

 

では、人間はなぜそのような行動をとるのでしょうか?本人は主観的には親切にしたいから親切にしていることが多いでしょうが、ではなぜ親切にしたいという心の仕組みを備えているのでしょうか?

 これは、適応論的アプローチに立つと、大きな謎なのです。なぜなら、一方的に親切にするだけでは、自分にとってコストがかかるだけなので、非適応的だからです。この問題は、進化生物学では利他行動の問題として捉えられてきたのですが、20世紀終わりから、急速に研究が進展し始めました。基本的な考え方は、間接互恵性により一般交換が成立しているためだというものです。ギブアンドテイクとは異なり、親切にしてあげた相手から直接の見返りはないのですが、他の人から自分が親切にしてもらえるという間接的なお返しを受け取ることができるため、適応的になるのだ、と考えるのです。これが間接互恵性の原理です。そして、社会全体において間接互恵性の原理が成立している状態を、一般交換が成立していると呼びます。このような一般交換は他の動物では見られない、人間に特有の社会現象です。しかし、その成立は一筋縄ではいきません。どのような条件の下で一般交換が成立するのか、一般交換成立は社会の中の他の現象とどのような関係にあるのかは、今まさに世界中の研究者が追求しようとしているテーマです。当研究室では、モデル研究と実証研究の両方の側面から、この問題について研究しています。

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② 社会的ジレンマ

相互協力はいかにして達成可能か?

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 東日本大震災の後、電力供給量が少なくなったために節電が呼びかけられています。しかし、各個人にとっては、夏の暑い時期はクーラー、冬の寒い時期は暖房を入れる方が当然よいわけです。しかし、みんながそのように行動すると、電力が足りなくなって、停電してしまいます。

 このように、各個人にとっての自己利益の最大化が社会全体にとっては望ましくない帰結をもたらしてしまうような状況を、社会的ジレンマと呼びます。このような社会的ジレンマ状況は人類の歴史の中で数多く存在し、今も存在し続けています。従って、人間は何らかの方法でこの問題を解決してきたはずです。それは一体どのような方法によってなのでしょうか?

 あるいは、複数の解決策があるのであれば、何によってどの解決策が用いられるかが決まるのでしょうか? 

 このような問いに対する研究は、20世紀半ばから、社会学、経済学、政治学、人類学、心理学などの様々な分野で数多く行われてきました。人類の歴史を振り返ると、小さな地域共同体における社会的ジレンマは比較的容易に解決可能であったかもしれませんが、現代社会のように、極端な場合は地球全体を巻き込む社会的ジレンマを如何に解決するかは、焦眉の急です。当講座は社会的ジレンマ研究の世界的な拠点の一つであり、当研究室でも様々な研究を行っています。

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③ その他の研究

 ①と②が主な研究テーマですが、他にも、公正感についての研究(不公正を是正したいと思うのはどのような状況で、それにどのような適応的意義があるのか、また不公正の認知の共有にはどのような意味があるのか、等)や、認知資源の投資戦略の社会差(特定の他者の間でうまくやっていくための関係特定的投資と、他者一般とよい関係を築くための関係一般的投資のどちらを重視するかが日米で異なる可能性)、複数の学習能力間の関係、等についても研究を行っています。

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研究手法について

 研究手法としては、モデル解析、実験室実験、質問紙調査を相互補完的に組み合わせて用いています。目的に合わせて、どの手法を用いるかが決まります。

1. モデル解析

当研究室では、コンピュータ・シミュレーションや数理モデルの解析を行います。

 目的は、どのような条件下でどのような相互作用プロセスを仮定すると、どのような帰結がもたらされるかを、論理的に明らかにすることです。我々は、理論的に考えているつもりでも、どうしても様々なバイアスがかかってしまい、何ら根拠のない結論を下したり、非論理的なことを自分では気づかずに考えてしまったりします。あるいは、単に頭で考えていても手に負えないということもあるでしょう。そのような時に、モデル解析は威力を発揮します。論理的に起きる可能性があることと、それがなぜ起きるのかを、誰の目にも見える形ではっきりと示すことができるからです。

 モデル解析には数学を用いるのが望ましいのですが、当研究室で扱う数理モデルは、基本的には高校までの数学の知識の応用でカバーできる範囲で、それ以上に高度な数学が必要となる場合にはその代替物としてシミュレーションを用います。

2. 実験室実験

 当研究室では、様々なタイプの実験を行っています。多くの場合は実験室実験で、複数の参加者がある状況下で意思決定を行ったり、他の人と相互作用を行ったりするものが多いです。実験には紙とペンを用いて行うものや、各参加者がコンピュータを使って相互作用するもの、参加者同士が対面して共同作業を行うものなど、様々な種類があります。

 実験の目的は主に、理論命題の検証です。現実の社会では無数の要因の影響があり、理論命題を厳密に検証することはほぼ不可能です。そのため、検討したい要因以外の影響を排除可能な実験室実験を行うのです。

3. 質問紙調査

 質問紙調査の目的は、探索的に何が重要な要因となる可能性があるのかを探ることにあります。実験では重要な要因は一つか二つに絞り、それを独立変数として操作しますが、そもそも何が重要な要因となり得る可能性があるのかが分からない場合は、質問紙調査によって見当をつけます。このような目的のためには、質問紙調査は費用対効果の高い手法です。

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北海道大学大学院文学研究科行動システム科学講座
高橋伸幸研究室

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