共同出版『社会集団の論理と実践−互恵性を巡る心理学と人類学的検討』 生態・文化人類学と社会心理学の若手研究者を中心として執筆された『社会集団の論理と実践』が、北海道大学出版会から出版されます。 【概要】 人間社会の本質は成員間の互恵性(互酬性)と競争であるということは、心理学・人類学を含む社会科学全般及び生物学において広く共有されている見解であり、北海道大学における21世紀COE「心の文化・生態学的基盤」設立の底流となった考え方でもある。本書は、そのうちの前者に焦点を当て、本拠点における研究の現時点での到達点を示すべく、企画されたものである。 本書に含まれる内容の多くは、2005年5月21〜22日に行われた日本文化人類学会第39回大会において、本拠点の成果を発表するために企画された「心の実験とフィールドワーク」という分科会での若手研究者の発表を下敷きにし、それらを発展させたものである。具体的には、第二部の7章分がそれに当たり、第三章から第六章が若手人類学者による研究、第七章から第九章が若手社会心理学者による研究となっている。第三章では、山口氏が捕鯨船における船員間での規範と実際の捕鯨活動がどのように相互連関するかを論じている。第四章では、斎藤氏がインドと秋田の鍛冶屋の持つ心の仕組みの共通点と相違点を考察し、それらが鍛冶屋が経済的・自然的・社会的環境に適応するプロセスにおいてどのようにして形成されてきたかを論じている。第五章では、木村氏がハンティ(西シベリアの少数民族)の人々の伝統的な通過儀礼について報告し、そのような儀礼の維持と変容がハンティ社会における生活においてどのような意味を持つのかを考察している。第六章では、上原氏が下北におけるオシラサマ信仰について論じ、このような信仰とそれに伴う祭りの社会的機能、そしてそれらを支える心の仕組みについて検討している。 第七章からは若手社会心理学者による研究である。第七章では、仲間氏が90年代以降注目を集めている心理学における新しい分野である「文化心理学」について概観し、これまでに得られた心の文化差の知見と、それらを生み出す仕組みについて議論している。第八章では、鈴木氏が、これまでの文化心理学において東アジアに特有の認知傾向だとされてきた「包括的認知」について論じ、そのような認知傾向がなぜ東アジアにおいて特に見られるのかについての一つの可能なメカニズムを提唱している。第九章では、竹村氏が、これまで集団主義的だとされてきた日本人の行動傾向は、それを支える制度と心の仕組みとが表裏一体となって存在していることにより生まれているのだということを、実験室実験により明らかにしている。 第三部の第十章は、以上の研究を受けて、人類学と心理学における若手研究者たちがお互いの研究について忌憚のない意見をぶつけ合い、新たな研究の方向性を見いだそうとした討論の記録である。ただし、これは討論の逐語的記録ではなく、数ヶ月間にわたる議論を討論形式でまとめ直したものであることを断っておきたい。 これらの個別の研究の前に、第一部では、編者の煎本と高橋が、それぞれ人類学と心理学における心の社会性へのアプローチについて論じている。第一章は、編者である煎本が、人類学における互酬性についての見解を概観し、特に北方民族の社会においてそれがどのようなかたちで実現されているかを、豊富なフィールドワークの知見を元に論じている。第二章では、編者である高橋が、心理学における互酬性についての議論を概観し、シミュレーションや数理解析などのモデル研究の最近の発達と、実験室実験や質問紙調査などの実証研究で得られた知見についてまとめている。そして、最終章である第十一章では、編者でもありCOEリーダーでもある山岸が、人類学と心理学の関係について歴史的に振り返り、本拠点における成果と今後の展望について述べている。 【目次】 前書き 第一部:心の社会性への二つのアプローチ 第一章:人類学的アプローチによる心の社会性第二部:心の実験とフィールドワーク 第三章:小型沿岸捕鯨社会の規範と捕鯨者の心第三部:人類学的アプローチと社会心理学的アプローチの接合へ向けて 第十章:討論−心のしくみ解明のためにフィールド研究と実験研究で協力できることは? |
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