Seminar

論文紹介(馬場・佐藤)

Functionally relevant responses to human facial expressions of emotion in the domestic horse (Equus caballus)
(ウマにおけるヒトの顔の表情に対する機能的に関連した反応)
Smith, V. A., Proops, L., Grounds, K., Wathan, J., & McComb, K. (2016).  Biology Letters, 12, 20150907

ヒト以外の動物が感情も含めヒトの信号を認識できるかどうかということは、科学的かつ実用的な重要性を持っており、そのことは特に家畜化された種にあてはまる。本研究は、写真内のポジティブ(happy)とネガティブ(angry)なヒトの顔の表情を自発的に区別するウマの能力の証拠を初めて提示した。本研究の結果は、怒った顔が刺激への機能的な理解を示唆する反応を引き出すことを示した。つまり、ウマは写真に対して、左視線傾向(一般的にネガティブであると知覚される刺激と連合している側方化)と心拍数の急速な増加を示したのである。このようなヒトの感情に対する側方化した反応はこれまでイヌにおいてのみ立証されており、心拍数における顔の表情の影響はこれまでの異種間の研究において示されてこなかった。本研究の結果は異種間コミュニケーションを理解するのに役立つ見識を提供すると同時に、種を超えた感情表現や感情知覚の一般法則と順応性についての興味深い疑問を提起する。(馬場)

Chimpanzees empathize with group mates and humans, but not with baboons or unfamiliar chimpanzees
(チンパンジーは群れの仲間とヒトに対しては共感するが、ゲラダヒヒや見知らぬチンパンジーには共感しない)
Campbell, M.W. & de Waal, F.B.M. (2014). Proceedings of the Royal Society London B: Biological Sciences, 281, 20140013.

ヒトは見知らぬヒトや他種に対しても共感するが、ヒト以外の動物が同様に広い共感性を持つかは知られていない。本研究ではヒトに近い種であるチンパンジーの共感性の広さと柔軟さを調べた。無意識の共感を計測するためあくびの伝染を用い、親しいヒト、見知らぬヒト、ゲラダヒヒ(見知らぬ種)のビデオをチンパンジーに見せた。あくびのビデオと統制のビデオの効果を比較することで、それぞれの刺激が伝染を引き起こすかを調べた。内集団と外集団のチンパンジーへの反応についての過去のデータと総合すると、親しい/見知らぬヒトどちらも内集団のチンパンジーと同じくあくびの伝染を引き起こした。ゲラダヒヒのビデオは伝染を起こさず、外集団のチンパンジーへの反応と同様であった。しかし、チンパンジーは外集団チンパンジーのビデオをより長く見た。この高い関心と低い伝染は、見知らぬチンパンジーへの敵意に基づくものであり、共感的反応を阻害したと考えられる。まとめると、チンパンジーは見知らぬメンバーも含め、異なる種への共感的つながりについて柔軟性を示した。これらの結果はヒトの共感性の柔軟さが近縁種から分岐したことを示唆する。(佐藤)

開講日 | 2016年04月27日 14:45-18:00 場所 | E304