後期ゼミ12回目 論文紹介(中分・瀧本)
論文紹介(中分・瀧本)
Chimpanzees coordinate in a negotiation game
(交渉ゲームにおいてチンパンジーは協調行動する)
Melis, A. P., Hare, B., & Tomasello, M. (2009)
Evolution and Human Behavior, 30(6), 381-392.
人間の協調行動において特に重要な側面は、資源に対して利害の対立があるとき協力的な結果を導くために交渉する(negotiate)能力である。人間や他の動物は、移動する方向や活動のタイミングなどに関して交渉することが知られているが、複雑な選好の存在する食物に関する交渉はほとんど知られていない。本研究ではペアとなったチンパンジーが2つの選択肢のある協調課題を行った。選択肢は、平等な報酬が得られる選択肢(例:5-5)と、不平等な報酬が得られる選択肢(例:10-1)であった。この設定によってパートナーと利害が対立するようになっており、また協調に失敗した場合にはどちらのチンパンジーにも全く報酬が得られないような設定となっていた。チンパンジーは、課題全体の78%-94%において協調に成功した。また優位個体が不平等な選択肢を提示したとしても、下位個体は22%—56%で協調した。様々な分析によって、被検体は戦略的に行動し、またパートナーの用いた戦略を認知していることが示唆された。これらの結果は、我々の最も近縁種であるチンパンジーが資源に対する利害の対立を互いに満足できるような方法で調停できることが可能である。それらは、人間の交渉に見られる、平等性に関する社会規範、計画を必要とする互恵的戦略、高度なコミュニケーションがなくとも行われる。
Rapid mimicry and emotional contagion in domestic dogs
(イヌにおける急速模倣と情動伝染)
Palagi, E., Nicotra, V., & Cordoni, G. (2015).
Royal Society Open Science, 2, 150505.
情動伝染は個体に他者の感情を経験させることができるという共感の基本形である。情動伝染はヒトや他の霊長類において顔の表情模倣と関連しているかもしれないと考えられている。表情模倣とは自動的で速い(1秒以内)の反応で、無意識に他者の表情を模倣することである。われわれは、体(play bow, PBOW)や顔の表情(relaxed open-mouth, ROM)の急速模倣がイヌの同種同士の遊びにおいて見られるかを検討した。イヌは、自由に遊ぶやりとりにおいて、PBOWやROMといったイヌにおける遊びの典型的なシグナルを見た後に、それらと動作的に類似したJUMPやBITEといった遊びの様式を見た後よりも、より強く速い(1秒以内)表情模倣を示した。急速模倣によって強調された遊びは、ただシグナルによって強調されただけの遊びよりも長く持続した。さらに、急速模倣の生起は当該個体同士の親密さに強く影響された。つまり、社会的絆が強くなるほど、急速模倣の回数が増えたのである。まとめると、本研究は、イヌにおいて急速模倣が存在することや、遊びたいという気持ちの共有に模倣が関連していること、模倣が社会的調整の役割をしていることを示した。これらの結果は、イヌにおける急速模倣と共感の基礎的要素である情動伝染の間には何らかの関連があるという考えを支持する。
開講日 | 2016年02月02日 4・5限 場所 | E304