Seminar

論文紹介(吉岡・和田)

自主ゼミ5回目では、学部4年の吉岡くんと和田さんが論文紹介をしました。

First-time rhesus monkey mothers, and mothers of sons, preferentially engage in face-to-face interactions with their infants

「初産であるまたはオスの子供(息子)を持つアカゲザルの母親は、優先的に対面のインタラクションを取る」

Dettmer, A.M, Kaburu, S.S.K., Byers, K.L., Murphy, A.M., Soneson, E., Wooddell, L.W., and Suomi, S.J. (2016) American Journal of Primatology, 78, 238-246.

DOI= https://doi.org/10.1002/ajp.22503

母親と乳児の対面による相互作用は霊長類において多く見られるが、その発生頻度には変動があり、変動の理由はいまだ明らかになっていない。母親から子に対する投資は、対面による相互作用のほかのものには、乳児の性別、母体経験に依存することが示されている。したがって、対面による相互作用(相互注視)において、乳児の性別や母体経験が、その後の社会的発達にとって重要であるとされる相互注視(MG)の変数となりうるか実験した。メリーランド州プールズビルのNIHアニマルセンターにある、比較倫理学フィールドステーションで生まれ育った28匹(初産6匹、オスの乳児12匹)の半野生のアカゲザル(Macaca mulatta)を対象に行った。その結果、乳児の性別(すなわち男性)と初産であるかどうかは相互注視の有意な予測因子であることが分かった。これらの調査結果は息子と娘への差別的な母体投資を示唆しており、母親は将来の社会的能力を確保し、その後の繁殖成功を確実なものにするために、行動的に息子に差別的投資を行っている可能性がある。この調査結果は神経学的及び行動発達における性差につながる、初期の人生経験を特定する文献として追加される。(吉岡)

 

Mother–calf vocal communication in Atlantic walrus: a first field experimental study. 

「タイセイヨウセイウチの母子間音声コミュニケーション:最初の野外実験研究」

Charrier, I., Aubin, T., & Mathevon, N. (2010). Animal Cognition, 13(3), 471-482.  DOI:10.1007/s10071-009-0298-9

 研究されている群れをなす鰭脚動物のすべてにおいて、母子間の音声認知が存在し、それにより繁殖群を取り巻く紛らわしい環境の中でも素早く、確実に母子が出会うことができる。この認知プロセスの効率性が、特にメスが交代で海に採食に出かけ、地上で授乳をする種において、子どもの生存を保証する。タイセイヨウセイウチ(Odobenus rosmarus rosmarus)は群居性の高い鰭脚動物で、メスは長期間(2—3年)子どもの世話をする。この種では、群れの高い個体群密度のために、母子間の音声認知が生じていると予測されるが、母子間の音声認知はまだ実験的に示されていない。そこで、本研究では母親と子どものbarkの個体差について、野外で収集した音声の周波数と時間的な音声パラメーターの測定により評価した。判別分析と人工神経回路分析の結果、正しい分類の割合は高く、周波数変調と周波数値に関連したパラメーターには明確な個体差があることが示唆された。音声再生実験から、タイセイヨウセイウチの母親は、血縁関係にない子どもよりも自分の子どものbarkに対してより反応することが示された。さらに、伝播実験から、barkは氷上よりも水上でより長い距離を伝播し、周波数変調や周波数スペクトルのような音響的特徴は伝播中の劣化に対して耐久性があることが示唆された。音響解析と伝播実験の結果から、周波数パラメーターは個体を特定するプロセスにおいて重要な音響的特徴である可能性が示された。本研究はタイセイヨウセイウチにおいて信頼性の高い母子間の音声認知が発達しており、母子間の強い社会的絆形成に寄与していることを実験的に示した。(和田)

開講日 | 2020年07月18日