Seminar

論文紹介(戸松・吉岡)

自主ゼミ2回目では、学部4年生の戸松くんと吉岡くんが論文紹介をしてくれました。

Mu-opioid receptor (OPRM1) variation, oxytocin levels and maternal attachment in free-ranging rhesus macaques

「放し飼いのアカゲザルにおけるμオピオイド受容体(OPRM1)遺伝型の多様性がオキシトシンレベルと母親の愛着に及ぼす影響」

Higham, J. P., Barr, C. S., Hoffman, C. L., Mandalaywala, T. M., Parker, K. J., & Maestripieri, D. (2011). Behavioral neuroscience, 125(2), 131. doi:10.1037/a0022695

 母親と乳児の絆について遺伝的・神経内分泌的な基礎を知ることは、哺乳類の親和性と愛着を理解するうえで重要である。機能的には類似しているμオピオイド受容体が、ヒト、およびアカゲザルに存在する。アカゲザルでは、μオピオイド受容体の多様性は、乳児の母親に対する親和性の個体差を予測する。具体的には、G対立遺伝子をもつ乳児はc対立遺伝子しかもっていない個体よりも母親から離れる際に苦痛がまし、再び会った際により多くの時間を過ごす。ヒトでは、G対立遺伝子を持つ個体は、社会的パートナーから拒絶されたときに、より感情的な痛みを認識すると報告されている。私たちは、プエルトリコのカヨサンディエゴにある放し飼いのアカゲザルの行動を一年間にわたって調査した。さらに、μオピオイド受容体遺伝系を調べるための血液サンプルと、オキシトシンレベルを調べるための脳脊髄液のサンプルも採集した。私たちは、G対立遺伝子を持つ母親はC対立遺伝子しか持たない母親に比べ、乳児を拘束(乳児と身体が離れてしまうのを妨害)する頻度が高かった。また、G対立遺伝子を持つ母親は、C対立遺伝子しか持たない母親に比べ、授乳時のオキシトシンレベルが高く、授乳と妊娠をしていないときのオキシトシンレベルが低かった。この研究はμオピオイド受容体遺伝子型と母親の仔に対する愛着との関連を示す最初の研究であり、放し飼いの霊長類の潜在的な遺伝型と神経分泌物質を介した行動との最初の研究の一つである。(戸松)

 

Amygdala gene expression correlates of social behavior in monkeys experiencing maternal separation.

「母子分離を経験したサルの社会的行動における扁桃体遺伝子発現の相関」

Sabatini, M. J., Ebert, P., Lewis, D. A., Levitt, P., Cameron, J. L., & Mirnics, K. (2007). Journal of Neuroscience, 27(12), 3295-3304. DOI: https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.4765-06.2007

死亡または分離によって母親と別れた子供は、将来うつ病や不安のような精神疾患を発症するリスクが高くなる。1週齢で母親との分離を経験しているサルは、社会的行動が少なくなり、対して自己慰め行動(例えば、親指しゃぶり)は増加する傾向にある。一方で、生後一か月で母親との分離を経験したサルは社会的な快適さを追求する傾向にある。この研究では1週間、1か月、および3か月の年齢で母子分離された乳児から収集された扁桃体組織のmRNA含有量の変化を調べることにより、これらのストレス誘発行動変化の根底にある神経システムを特定しようとこころみた。グアニル酸シクラーゼ1 3(GUCY1A3)は、1週間と1か月のグループの間で異なる発現を示した。この遺伝子の発現は、急性の社会的励まし行動および長期の緊密な社会的行動と正の相関があり、自己慰め行動とは負の相関がみられた。  正常なサルにおけるGUCY1A3のハイブリダイゼーション研究は、この遺伝子が1週齢までに発現され、その発現が検査された他のすべての偏桃体の脳領域で大きいことを示した。 GUCY1A3は、サルの乳幼児が若年期のストレスを経験する年齢に応じて異なって表示される行動の表現型の変化に寄与していると結論付ける。(吉岡)

開講日 | 2020年05月28日