Seminar

論文紹介(戸松・小野)

3年生の戸松くん・小野さんが論文紹介をしてくれました。

Early experience affects the strength of vigilance for threat in rhesus monkey infants.  
  早期の経験はアカゲザルの子どもにおける脅威に対する警戒の強さに影響する
Mandalaywala, T. M., Parker, K. J., & Maestripieri, D. (2014). Psychological Science25(10), 1893-1902.  DOI:https://doi.org/10.1177/0956797614544175
 
ヒトとヒト以外の霊長類の双方で社会的脅威に対する認知的バイアスが存在しているが、そのバイアスの発達過程についてはよくわかっていない。本研究では、生後3か月の個体45頭と生後9か月の個体46頭餌付けされた野生の(free-ranging)アカゲザル(Macaca Mulatta)の乳児を用いて脅威バイアスの発達過程を調べた。その結果、生後3か月の個体群ではバイアスがみられなかったが、生後9か月の個体群では社会的脅威に対する注意を維持するバイアスがみられた。そして、社会環境がこの社会的脅威に対する警戒の増加に影響しているかどうかを調べるために、実験で用いられた生後9か月の個体群における母親の順位と保護性について、生後12週間のデータを収集した乳児の脅威に対する警戒と発達初期の母親の特性との関連を調べた結果、生後9か月の個体群では順位が高い母親の乳児と保護行動が多い母親の乳児のほうが、順位が低い母親の乳児と保護行動が少ない母親の乳児に比べ、脅威に対する警戒を強く見せることがわかった。これらの結果は、アカゲザルの乳児の社会的認知は、母親の保護性という直接的な要因と、母親の順位という間接的な要因によって形成されていることを示している。(戸松
 
Animals remember previous facial expressions that specific humans have exhibited.
動物はある特定の人間が見せたことのある顔の表情を覚えている」
Proops L, Grounds K, Smith A V, and McComb K (2018), Current Biology, 28(9), 1428-1432.
ヒトにとって、顔の表情とは重要な社会的シグナルであり、我々が特定の個人をどのように認知するかということには、その人が以前会った時に見せた些細な情動手掛かりが影響するかもしれない。幅広い種の動物は、顔の表情から他者の感情を識別することができ、特定の個体との情動的経験を覚えておくことは、その個体に再び遭遇した時に社会的絆を形成したり攻撃を回避したりすることに利益をもたらすことが明らかになっている。ヒト以外の動物が、自分を直接傷つけたことのある個体を覚えているということは証明されているが、個体の顔の表情を見ただけでその個体に関する長期的記憶を持つかどうかはまだ知られていない。そこで我々は、飼育下にあるウマに怒り又は喜びの表情をした人の顔写真を見せ、数時間後にその人が真顔で現れるのを見せるという統制実験を行った。短期間での表情の呈示によって十分に、その個人に対する後の反応に違いが生じ、怒りの表情を示していた人には否定的な、喜びの表情を示していた人には肯定的な知覚が生じた。(しかし、写真とは異なる人が現れた場合は違いが見られなかった。)どちらの人も、ウマが見た写真がどちらの人のどちらの表情かは知らなかった。本研究の結果は、ヒト以外の動物が、ヒトがその時々に見せる情動手掛かりを盗み見し、それを用いてその人との将来のやり取りを導くことができるということの明確な証拠を提供する。(小野)
 
 

開講日 | 2019年07月10日 14:45~18:00 場所 | W104・W308