Seminar

論文紹介(山本・井上)

On Cuteness: Unlocking the Parental Brain and Beyond
「かわいさとは?:養育脳の解明の現状と今後」
Kringelbach, M.L., Stark, E. A., Alexander, C., Bornstein, M. H. & Stein A (2016) Trends in Cognitive Sciences, 20(7), 545–558. doi.org/10.1016/j.tics.2016.05.003

乳児のかわいさは、育児に頼りっきりな彼らの生存を確実にさせる強力な保護メカニズムである。先行研究ではかわいさを、乳児の顔の特徴は本能的な育児行動への「生得的開発機構」として呈示される、“Kindchenscema”(乳児スキーマ)の初期の動物行動学の考えと結び付けた。私たちは、はっきりとした乳児の声と匂いを含めるために視覚的特徴を越えたかわいさの概念を広げることを提案する。行動と神経画像の研究からの証拠は、この広げられたかわいいという概念を単純な「本能的な」行動と、「育児・保護・複雑な感情」に結び付けている。私たちは、遊びや共感やおそらく高次の道徳感情も含んだ、大脳におけるより遅い処理が後に続く、特権的な神経活動の素早い発火による重要な親の能力を、どのようにかわいさが支えるのかを再検討する。(山本)

Prosocial primates: selfish and unselfish motivations
「向社会的な霊長類:利己的もしくは利他的な動機付け」
de Waal, F. B. M. & Suchak, M. (2010) Phil. Trans. R. Soc., 365, 2711-2722. doi: 10.1098/rstb.2010.0119

ヒト以外の霊長類は、争いで助け合う、共に狩りをする、食べ物を分け合う、そして攻撃の被害にあった個体を慰めるなどに反映されるような、よく発達した向社会的で協力的な傾向をもつという特徴がある。このような行動の背後にある直接的な動機付けは、その行動の進化の根本的な理由と混同するものではない。たとえ行動が結局のところは利己的なものだったとしても、その背後の原因となる動機付けは、純粋に利他的なものかもしれない。したがって、(ⅰ)行為者にわかるような利益を伴う利他的・協力的な行動で、その利益に気づいている行為者が協力的・利他的にふるまうことでその利益を得ようとするように仕向けている可能性があるものと、(ⅱ)行為者にわかるような報酬を提供しない利他行動は、明確に区別する必要がある。後者は、お返しの利益の発生があまりにも予測不可能である、お返しの利益があまりにも時間が経ってから生じる、もしくはお返しの利益が包括適応度をあげるといったような間接的な性質をもつといった場合である。また後者は利他的な衝動、ヒトでは相手の要求、痛み、苦悩への共感から生まれるが、それを想定することでしか説明できない。共感は、ある個体に他個体の情動状態を共有させるという向社会行動の直接的なメカニズムだが、進化論的な協力から予測する方法に偏っている。(血族関係、社会的な親密さ、お返し)ヒト以外の霊長類(と他の哺乳類)において、結果として生じる向社会的な傾向の利他的で自発的な性質だけでなく、直接的なメカニズムについての証拠が増えてきている。本稿では非血縁個体同士の協力の背後にある互恵性のメカニズムと、協力の制約と裏切りの対処法とされている不公平忌避の観察的・実験的証拠を再検討する。(井上)

開講日 | 2018年06月13日 14:45~18:00 場所 | E304