Seminar

論文紹介(ワイルズ・川瀬)

Knowledgeable Lemurs Become More Central in Social Networks
「物知りキツネザルは社会的ネットワークにおいて、より中心的存在になる」
Kulahci, I., Ghazanfar, A,. & Rubenstein, D. (2018) Current Biology, 28, 1306-1310.  doi.org/10.1016/j.cub.2018.02.079

社会的つながりと情報伝達には強い関係性があり、そこでは新情報獲得の有無に関わらず、個人のネットワークポジションが重要な役割を果たす。もし新情報の学習が、ネットワークポジションから影響を受けるだけでなく、ネットワークポジションに影響を与えるならば、社会的つながりと情報獲得は双方的なものなのかもしれない。情報を他個体よりも早く獲得し頻繁に使えば、他個体から親和的行動を受け、その結果、中心性が高まるかもしれない。しかし、学習のネットワークへの潜在的な影響についてはいまだ理論的・実証的に説明されていない。そこで本研究では、キツネザルが新しい食べ物探し課題の解決法を学んだ後、ネットワーク内での中心性が変化するかを調べた。学習実験以前から頻繁に他個体に近づいたり、関わりをもちにいった個体は、より他個体の課題解決を観察し、学習する傾向にあった。また、学習実験前後のネットワークを比べると、他個体から頻繁に観察された個体は、実験前よりも後により多く親和的行動をうけ、ネットワーク内での中心性が高まった。この変化は課題が終わっても続き、また、学習済み個体による他個体への親和的行動によって引き起こされたものではなかった。個体間の関わりを「received interactions(受け身の関わり)」と「initiated interactions(能動的な関わり)」別々で測ったところ、ネットワークポジションに影響する要因は完全にはわからなかったが、それぞれの個体の学習し、うまくやれるかどうかの違いは、社会的中心性を決定する重要な役割を果たす(特に他者から学ぶことが有益なときは)ということを示した。(ワイルズ)

Can dogs use vocal intonation as a social referencing cue in an object choice task?
「イヌは社会的参照として音声のイントネーションを物体選択課題において用いるか」
Colbert-White, E.N., Tullis, A., Andresen, D.R., Parker, K.M., & Patterson, K.E. (2018) Animal Cognition, 21, 253-265. doi.org/10.1007/s10071-018-1163-5

先行研究の証拠から、イヌの選択は、指差しそれ自体、さらに表情・イントネーション(上がったり下がったりする声のピッチ)・単語と組み合わされた指差しといった、ヒトから送られる社会的手がかりによって、影響を受けることが示されている。本研究では、他の顕著な手がかりなしに、イントネーションは固有の情報を伝達するかを検討するために、物体選択課題を用いた。実験者の背中をイヌに向け、非言語的な発声を用いることによって表情と言語情報の手がかりを取り除いた。各試行間に、イヌは以下に示す3発声の手がかりのうちの2つが呈示された:ポジティブ(喜び音声)、ネガティブ(悲しみ音声)、呼吸(ニュートラルコントロール)。実験1では、ペアの音声手がかりのみを呈示された場合、イヌはポジティブのイントネーションを選んだ。またネガティブと呼吸の間の選択行動に差はなかった。実験2では、各ペアリングにおける2つの発声のうちの一つと一緒に指差しの手がかりを含めた。この時、イヌはネガティブイントネーションと同様に、指さしの手がかりを受けている容器を選び、それらの手がかりが一緒に呈示されたときの選択が一番多かった。結論として、これらの結果は、イヌが実際に音声のイントネーションから情報を引き出すことができ、社会的参照の手がかりとしてイントネーションを用いている可能性を示している。しかし、行動におけるイントネーションの影響は、指さしの存在によって強く影響を受けているように思われる。指さしは、イヌにとって非常に顕著な視覚手がかりであることが知られている。指さし手がかりの存在によって、イントネーションは参考になるものからより教示的なものにシフトしている可能性がある。(川瀬)

 

開講日 | 2018年06月06日 14:45~18:00 場所 | E304