論文紹介(上田・小原・ワイルズ)
Behavioural coordination of dogs in a cooperative problem-solving task with a conspecific and a human partner
(同種及びヒトのパートナーとの協調型問題解決課題におけるイヌの行動調整)
Ljerka, O., & Nicola S. C. (2014).
Animal Cognition, 17(2), 445–459.
家畜化の過程によって、おそらくイヌは情動反応(恐怖や攻撃)を減少させ、人間とともに暮らすのに適応的な社会的認知能力を強めた。このことは、イヌには協調型問題解決において重要な能力、すなわち社会的許容と他個体の行動を気にかける能力が独自に備え付けられているということを示唆する。したがって、イヌはヒトのパートナーと一緒に取り組まなければならない課題をうまく実行すると仮定される。近年、イヌが他のイヌとの簡単な協力課題をうまく解決するということがわかった。しかし、課題が簡単だったために、この研究では、イヌのふるまいが行動調整をする認知能力、すなわち自分の行動をパートナーのふるまいに合わせる必要があることと課題が要求することを結びつける能力に基づくものかどうか、明確に証明することはできなかった。本研究では、行動調整を調べるのに適しており、最も一般的に使われる協力課題を使った実験をイヌで行った。さらに、イヌを同種他個体とヒトのパートナーの両方と組み合わせた。イヌにとって、パートナーを待つのを要求されたときに、必要な行動を抑制することが困難であった。しかし、イヌは、協力を成功させるために必要な2つの手がかり、つまり、パートナーの行動と自分たちへの報酬につながる動きに注意を向けることはできた。この行動調整は、同種のときとヒトのときの両方でみられた。これは、イヌがヒトと他のイヌとの交流において、高度に発達した社会的認知能力をみせるという最新の発見と一致している。(上田)
Preverbal infants affirm third-party interventions that protect victims from aggressors
(言語習得前の赤ちゃんでも、攻撃者から被害者を守るために、第3者介入を行う)
Kanakogi, Y., Inoue, Y., Matsuda, G., Butler, D., Hiraki, K., Myowa, Yamakoshi, M.(2016)
Nature Human Behavior, 37, 1-7.
他者の味方となった第3者による保護的な介入は、モラルや正義、勇敢といった概念と関連づけされ、称賛される行為である。また、第3者が介入し他者を助けるといった物語は、本や映画、神話としてヒトの歴史に記録され、今でも浸透している。私たちが本研究に用いた図形は、未就学児童による保護的な介入を引き起こすものであった。例えば、3歳の子どもは、邪魔をする者から被害者を守るために、被害を及ぼす行為に介入する。また、邪魔する者を罰するだけではなく、被害者を助けることを優先としている。しかし、いつ私たちが他者からの介入を認めるかはまだ明らかになっていない。そこで、私たちは132人の6~10ヶ月の赤ちゃんに実験を行い、この発達的な起源を明らかにしたい。邪魔をする者または、邪魔をしない者がいる積極的な交流を見た後で、6ヶ月の赤ちゃんは邪魔をする者に対して保護的な介入を行った。さらに実験を重ねると、6ヶ月の赤ちゃんが邪魔をする者から被害者を守り、年長の赤ちゃんは邪魔をするものの意思を考慮したうえで、このような保護的介入を行うといった心理的プロセスが明らかになった。これらの発見は、第3者が攻撃されていることを知覚して、状況を理解して、保護的な第3者介入を行うといった発達的な過程を明らかにした。人間の文化において何千もの物語として浸透している称賛される行動は、言葉習得前の赤ちゃんの心に刻まれているのである。(小原)
Fine-scale analysis of synchronous breathing in wild Indo-Pacific bottlenose dolphins (Tursiops aduncus)
(野生ミナミバンドウイルカにおける呼吸同調の分析)
Sakai,M.,Morisaka,T.,Kogi,K.,Hishii,T.,Kohshima,S. (2010)
Behavioural Processes, 83, 48–53.
本研究では東京・御蔵島に生息するミナミバンドウイルカのダイアド(2者関係)における呼吸同調の量的分析を行った。ほとんどの場合、ペアは近接した状態で同じ方向を向き(97%)、呼吸同調時は体軸は平行となっていることが観察された。さらにペアは呼吸同調の前後で同じ行動をとっていた。これらの結果からイルカは行動を同調させること、そしてその呼吸同調は社会的親和行動としての”pair-swimming”を構成していることが示唆される。成体、亜成体において同じ性別、同じ年齢層のペアでは呼吸同調が頻繁におこった。また母-子ペア、エスコート(自分の子以外とペア遊泳するメス)-子ペアでも同様に呼吸同調が頻繁におこった。母-子ペアの個体間距離は他のペアよりも小さかった。呼吸同調におけるペア間の呼気のタイミングのズレはメス同士のペアでオス同士のペアよりも小さく、また成体同士のペアで亜成体同士のペアよりも小さかった。これらの結果から年齢と性別がこれらの特徴に影響していることが示唆される。(ワイルズ)
開講日 | 2017年02月08日 14:45-18:00 場所 | E304