Seminar

論文紹介 (井上・明日香)

Synchronous diving behavior of Adelie penguins
「アデリーペンギンの同調潜水行動」
Takahashi, A., Sato, K., Nishikawa, J., Watanuki, Y., & Naito, Y. (2004). Journal of Ethology, 22(1), 5-11.
https://doi.org/10.1007/s10164-003-0111-1

同種との同調行動は、狩猟採集における効率を高める機能があると示唆されている。しかし、同調行動がもたらす潜在的なコストはこれまでほとんど研究されてこなかった。アデリーペンギン(Pygoscelis adeliae)は定着氷に囲まれた小さな開水面で同種と同調して潜水することがある。我々は12-47羽の群れの同調した潜水を1.7-4.5時間観察し、その中の2匹のペア3組と3匹のグループ1組の潜水行動を、深度時間記録計を用いて調査した。潜水と浮上のタイミングは個体間でわずかに異なり、1羽がほかの個体より早く潜水し始める傾向が見られた。潜水時間が個体間でほとんど変わらない一方、最大潜水深度は大きく異なり、4組のうち2組が常にもう一方の個体より深く潜水するという傾向が見られた。潜水中の個体間の深度差は、沈降中・浮上中にくらべ、採食を活発に行っていると考えられるフェーズで深度差が大きく、集団中の個体が独立して狩猟活動を行っていることが示唆された。採食を活発に行っていると考えられるフェーズの長さは、集団の中で深くまで潜った個体において短く、潜水と浮上を他個体に同調させることで採食時間が短くなるというコストがある可能性が示唆された。(井上)

Deer Mothers Are Sensitive to Infant Distress Vocalizations of Diverse Mammalian Species
「シカの母親は様々な哺乳類幼児の苦痛な鳴き声に対して敏感に反応する」
Lingle, S., & Riede, T. (2014). The American Naturalist, 184(4), 510-522.
https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/677677

子どもの苦痛な鳴き声(泣き声)に対する聴覚構造、行動コンテキスト、親の反応は、ヒトを含む哺乳類において類似している。これらの類似点によって、動物は分類学的および生態学的に遠い種の苦痛な鳴き声に反応できるのか。著者らは、ミュールジカ(Odocoileus hemionus)とオジロシカ(Odocoileus virginianus) の母親に対して、モルモット(Marmota flaviventris)、オーストラリアアシカ(Neophoca cinerea)アナンキョクオットセイ(Arctocephalus tropicalis)、ネコ(Felis catus)、コウモリ(Lasionycteris noctivagans)、ヒト(Homo sapiens)、その他の動物の幼児が発する苦痛な鳴き声をスピーカーを使って聞かせた。シカは、それらの苦痛な鳴き声の基本周波数(F0)が、自己の幼児に応答する周波数の範囲内に入っていた場合(もしくは範囲内に入るように操作された場合)には、スピーカーに対して接近行動を示した。一方で、捕食者の鳴き声や、コントロール(制御)音に対しては接近行動を示さなかった。著者らの結果は、親とのコミュニケーションに必要な幼児の苦痛な鳴き声の音声的特徴、およびその音声的特徴に対する親の感受性は、様々な哺乳類の間で共有されていることを示唆している。(明日香)

開講日 | 2018年10月10日 場所 | E304