21世紀COE 「心の文化・生態学的基盤に関する研究拠点」
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日時:2006年6月21日(水)12:10〜16:00
場所:北海道大学大学院文学研究科300室
発表者:
  石井敬子(北海道大学・日本学術振興会)
  宮本百合(京都大学・日本学術振興会)
  増田貴彦(University of Alberta, カナダ)
指定討論者:
  結城雅樹(北海道大学)
参加者:
  山岸俊男(北海道大学)
  Mark H.B. Radford(北海道大学)
  高橋伸幸(北海道大学)
  仲 真紀子(北海道大学)
  煎本 孝(北海道大学)
  阿部純一(北海道大学)
他約10名(計 約20名)

  人の心は、普遍的かつ生得的要素をもとにして、それらを取り巻く文化の日常的な現実によって構成されているとする考え方は、近年、文化心理学として提唱されてきている。とりわけ認知に注目した研究では、西洋においては分析的思考が優勢であるのに対し、東洋においては包括的思考が優勢であることが示唆されている(cf., Nisbett, Peng, Choi, & Norenzayan, 2001, Psychological Review)。このワークショップは、このような文化心理学的な観点から認知に関する比較文化研究に従事してきた若手研究者が集い、最近の研究成果について紹介するとともに、文化と認知研究に関する今後の展望を提示することを目的として開催された。

「推論における分析的・包括的思考様式」
石井敬子
(北海道大学・日本学術振興会)
これまでの研究では、西洋人は刺激の部分的な情報に、東洋人は刺激の全体的な布置により注目することが指摘されてきている。本研究では、ある物体に関する手がかりをもとにその物体が何かであるかを推測しなければならないようなときに、知覚・認知様式が分析的な西洋人は刺激の部分的要素から、また包括的な東洋人は刺激の全体的布置から、より効率的な判断をすると予測した。実験では、ある物体や動物の画像の部分的な情報のみを抽出した刺激を呈示され、その本来の画像が指すものは何かを同定する課題(パーツ課題)と、画像の全体的布置はわかるもののモザイク処理が施されて細部が曖昧な刺激を呈示され、その本来の画像が指すものは何かを同定する課題(モザイク課題)が用いられた。この2つの課題における正答率を日米で比較したところ、アメリカ人における正答率はパーツ課題においてのほうがモザイク課題よりも有意に高かったのに対し、日本人においては課題間で差がなかった。加えて、アメリカ人におけるパーツ課題の正答率は、日本人におけるそれよりも有意に高かった。つまり、認知様式における文化差を反映し、ある事物が一体何であるかを推論する際に用いられる手がかりの有効性に関しても文化差があることが示唆された。




「認知の文化・社会・物理的基盤:知覚的環境のアフォーダンス」
宮本百合
(京都大学・日本学術振興会)
我々の認知・知覚様式が文化間で異なることが近年数多く示されてきている。このような認知・知覚様式の文化的差異は、社会的環境の違いによって生じることが発達的研究や社会心理学的実験等で示唆されてきている。しかし文化が認知・知覚に与える影響は、社会的環境の違いを反映しているだけではなく、物理的環境の違いを反映している可能性も考えられる。そこで本研究では、知覚的環境の文化間での差異を検証し、さらにそのような知覚的環境の差異がそれに対応した注意の様式を促進するかどうかを検討した。大都市・中規模都市・農村の知覚的環境を日米間で比較したところ、主観的・客観的指標のどちらにおいても、日本の知覚的環境の方がアメリカよりも物が多く、より複雑で曖昧であることが示唆された。さらに、これらの知覚的環境をプライム刺激として実験を行ったところ、それぞれの知覚的環境に対応した注意の様式が誘引されることが示された。つまり、被験者の出身国に関わらず、日本の知覚的環境に接した被験者はアメリカの知覚的環境に接した被験者よりもその後の課題で文脈的な情報に注意を払っていた。これらの知見から、心理的プロセスの文化間での差異は、社会的環境から直接影響を受けているだけでなく、物理的環境という文化的資源を通じて促進・維持されていることが示唆されるだろう。




「文化と認知研究に関する今後の展望」
増田貴彦
(University of Alberta)
近年、文化心理学者を中心として様々な心理プロセスの文化差が報告されている。なかでも欧米の主要大学で行われている認知・知覚様式の文化差の研究は、ここ十年でほぼ一貫した結果を蓄積しつづけている。しかしながらそれらの評価は多様であり、批判的な見解も多い。とりわけ、認知心理学の分野においては、これらの知見に対して一定の評価を示す研究者、あるいは積極的な共同研究に乗り出す研究者がいる一方で、いまだ多くの研究者が、ここで示された文化差をあくまで心理プロセス全体からみれば表層的なものにすぎないとみなしている感がある。今回のトークでは、現在まで得られた文化心理学の知見を垣根を越えて他の領域(とりわけ認知心理学をターゲットとして)にアピールしていくために必須と思われる研究テーマ:(1)社会化のプロセスの研究、(2)生理指標を用いた研究、(3)認知と知覚のプロセスをより詳細に解明する研究、について具体的な研究を交えながら議論したい。さらに時間的な余裕があれば、文化心理学の研究全体に対する様々な立場からの批判的見解について、(1)その論拠をいくつかの立場に分けて整理することを試み、さらに(2)オーディエンスの方々の意見も交えながら、今後、文化心理学が他の領域とどのようにかかわっていくべきかを検討したい。




指定討論: 結城雅樹(北海道大学)


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