Seminar

論文紹介(高倉・川瀬)・卒論検討会(小原)

A horse’s eye view: size and shape discrimination compared with other mammals
「ウマの目からの眺め:ウマ、イルカ、チンパンジー、ヒトにおける図形知覚の比較」
Tomonaga, M., Kumazaki, K., Camus, F., Nicod, S., Pereira, C., & Matsuzawa, T. (2015) Biology Letters ,11: 20150701 doi.org/10.1098/rsbl.2015.0701

哺乳類は、水中から空中の様々な自然環境に適応しており、これらの異なる適応は、それらの固有の知覚能力および認知能力に影響を与えている。本研究では、コンピュータ制御のタッチスクリーンシステムを使用して、特に大きさと形状に関するウマの視覚的差別能力を調べ、その結果をチンパンジー、ヒトおよびイルカの研究と比較した。ウマは、円形で14%の差異を識別することができたが、チンパンジーおよびヒトよりも弁別閾値が悪かった。これらの違いは視力によって説明できない。さらに、この知見は、すべての種が面積を識別するために長さの手掛かりを使用することを示している。形状の差異に関して、ウマは、曲率、垂直水平線および対角線を有する形状の知覚的類似性を示し、ウマの知覚的類似性に対する各特徴の相対的寄与は、チンパンジー、ヒトおよびイルカのそれとは異なった。ウマは、全体的な形状よりも局所的な要素により注意を払う。(高倉)

Nasal Oxytocin Treatment Biases Dogs’ Visual Attention and Emotional Response toward Positive Human Facial Expressions
「オキシトシン経鼻投与はヒトのポジティブな表情に対するイヌの視覚的注意と情動反応を偏らせる」
Somppi, S., Törnqvist, H., Topál, J., Koskela, A., Hänninen, L., Krause, M. C., & Vainio, O. (2017) Front. Psychol. 8:1854 doi: 10.3389/fpsyg.2017.0185

神経ペプチドのオキシトシンは哺乳類において社会的行動と情動制御に重要な役割を果たしている。本研究の目的は、イヌにおいて、鼻腔オキシトシン投与が情動知覚の間、視線行動にどのように影響を及ぼすかを探索することであった。ヒトの表情写真を見ている間、自発的な注意の指標としてイヌの注視パターンが記録された。イヌの瞳孔の大きさもまた、情動喚起の指標として測定された。プラセボ対照の参加者内実験計画において、オキシトシンかプラセボのどちらかを鼻腔スプレー投与した後、43頭のイヌは、見知らぬ男性の喜びか怒りのどちらかの表出のある写真が呈示された。筆者らは、オキシトシン投与によって、イヌの注視パターンが表情に応じて選択的に影響されることを明らかにした。オキシトシン摂取後、イヌはプラセボ投与後に比べ怒り顔の目領域の注視が少なく、喜び顔の目領域をより再注視(視線を戻す)した。さらに、オキシトシン投与後のイヌは、怒り顔の目領域よりも有意に、喜び顔の目領域を注視、再注視した。ヒトの表情を見ている間におけるイヌの瞳孔の大きさの分析は、オキシトシンがイヌの情動喚起においても調整効果を持ことも示した。参加個体の瞳孔サイズは、コントロール(プラセボ投与)条件において、喜び顔よりも怒り顔を見たとき、有意に大きくなる一方で、オキシトシン投与条件においてはその効果がなくなっただけでなく、反対の瞳孔反応が引き起こされた。全体として、これらの結果はイヌにおいて、オキシトシン経鼻投与が選択的に、注意の配分や情動喚起を変化させることを示唆している。オキシトシンは、脅威的な社会的刺激に対する警戒を減らし、ポジティブな社会的刺激の顕著な特徴を増やす可能性があり、このようにして、イヌにとってより顕著で友好的なヒトの顔の目を注視する可能性がある。本研究は、イヌの社会的知覚能力における、オキシトシン作動性システムの役割のさらなる証拠を示した。筆者らは、ヒトとイヌのコミュニケーションを促進させうるメカニズムを通して、オキシトシンがイヌの基本的な情動過程を調整することを提唱する。(川瀬)

開講日 | 2017年12月13日 14:45~18:00 場所 | E304