Seminar

論文紹介(谷藤・ワイルズ・山口)

Mu-opioid receptor (OPRM1) variation, oxytocin levels and maternal attachment in free-ranging rhesus macaques
(放し飼いのアカゲザルにおけるμオピオイド受容体(OPRM1)、オキシトシンレベルと母性愛着)
Higham. J., Barr. C., Hoffman. C., Mandalaywala. T., Parker. K., & Maestripieri. D. (2011). Behavioral Neuroscience, 125(2), 131–136.

母子の絆の遺伝子的・神経内分泌的基盤を理解することは哺乳類の親密さや愛着を理解するのに重要である。機能的に類似した非同義のμオピオイド受容体(OPRM1)の一塩基多型は、ヒト(A118G)やアカゲザル(C77G)で発現し、保持されてきた。アカゲザルでは、OPRM1の違いは子供の母親に対する愛着の個体差を予測する。具体的には、対立遺伝子Gを持つ子供は対立遺伝子Cのホモ接合型を持つ子供よりも、母親から引き離される際に強い苦痛を感じ、再会時により長い時間を母親と過ごす。ヒトでは、対立遺伝子Gを持つ人は社会的パートナーから傷つけられたときに受ける精神的苦痛をより強く感じる。われわれはプエルトリコのカヨ・サンティアゴの放し飼いになっているメスのアカゲザルの集団について一年の間ずっと母性行動を研究した。メス個体を捕まえ、その血液サンプルを採取し、そこからOPRM1の遺伝子型を判定した。また同様にCSFサンプルも採取しオキシトシン(OT)レベルについても測定した。その結果、対立遺伝子Gを持つメスは対立遺伝子Cのホモ接合型を持つメスよりも子供の移動を制限する(子供の背中を引っ張って自分から離れるのを防ぐ)ことがわかった。対立遺伝子Gを持つメスはまた対立遺伝子Cのホモ接合型をもつメスよりも授乳中に高いオキシトシンレベルを示し、妊娠中も授乳中もそのオキシトシンレベルは低くならない。本研究はOPRM1の遺伝子型と子に対する母の愛着との関連を示す初めての研究である。(谷藤)

Unidirectional adaptation in tempo in pairs of chimpanzees during simultaneous tapping movement: an examination under face-to-face setup
(同時に行われる2個体のチンパンジーのタッピングの一方向の順応:対面式の実験配置を用いた検討)
Yu, L. & Tomonaga, M. (2016). Primates, 57, 181–185

ヒトや他の霊長類の自然な性質である同期行動は多くの研究で報告されてきた。しかし、それぞれの個体が互いに自分の行動を相手の行動に合わせているのか、片方の個体が相手に合わせるために大きく行動を変化させているのかは未だ明らかではない。そこで本研究では、チンパンジーのペアにおける相互作用的同調性の基盤を理解するためにテンポの順応の方向性を調べた。5頭のメスから成る4ペアのチンパンジーは対面式の実験配置でフィンガータッピングを行った。彼らはパートナーの動作について視覚的・聴覚的情報を両方とも得ることができた。実験条件は2つあり、1つは単独条件、もう一つはペア条件であった。条件ごとにタッピングを分析したところ、単独条件に比べ、ペア条件で、各ペアの片方の個体だけが自分のタッピングテンポをパートナーのテンポに合うように変えることが示された。この研究は、テンポの一方向の順応が聴覚的・視覚的相互作用の下ペア間で同時にタッピングが行われるときに生じることを説明している。(ワイルズ)

Evidence for the effect of serotonin receptor 1A gene (HTR1A) polymorphism on tractability in Thoroughbred horses.
(サラブレッド馬の扱いやすさに対するセロトニン受容体1A遺伝子多型の影響の根拠)
Hori, Y., Tozaki, T., Nambo, Y., Sato, F., Ishimaru, M., Inoue-Murayama, M. & Fujita, K.(2015) Animal Genetics , 47 , 62-67

扱いやすさ、すなわち、動物が訓練され、制御されるようになるのがどのくらい簡単か、ということは、家畜動物の管理や調教にとって、重要な行動特性である。しかし、その遺伝的根拠は依然として不明確なままである。セロトニン受容体1A遺伝子(HTR1A)の遺伝子多型は、いくつかの種において、不安と関係のある特性の個々のばらつきと関連づけられてきた。本研究では、セロトニン受容体1A遺伝子多型とサラブレッドの扱いやすさの関連を調べた。競走馬の育成牧場で育てられた1歳の馬167頭を被験体として、17項目からなる質問紙調査を用いて扱いやすさを評価した。調査の回答を主成分分析したところ、そのデータは5つの主成分(PC)得点に縮約された。そして、ウマのHTR1Aが符号化された領域におけるDNAの塩基が異なる一塩基多型(SNPs)の遺伝子型を調べた。その結果、セロトニン受容体の細胞内の領域においてアミノ酸が変化する原因となる、2つのSNPsのうち1つであるG709Aを発見した。G709Aは、牝馬において4つの主成分得点との間に有意な関連が見られ、牡馬においても1つの主成分得点との間に有意な関連が見られた。G709AのAアレルを持っている馬は、扱いやすさの得点が低かった。この結果により、セロトニンと関係のある遺伝子の多型が、ウマの扱いやすさに影響するかもしれないということに加え、その影響が性別によって部分的に異なるかもしれないということが初めて分かった。(山口)

開講日 | 2016年10月19日 14:45-18:00 場所 | E304