文献紹介(杉林、三代澤、石渡)
3年生の三代澤さん、石渡さん、4年生の杉林さんが文献紹介を行いました。
紹介文献
Mothers stick together: how the death of an infant affects female social relationships in a group of wild bonobos (Pan paniscus)
乳幼児の死が野生ボノボの集団におけるメス間の社会関係に与える影響
Leveda Cheng, Amber Shaw, & Martin Surbeck (2022) Primates, Jul;63(4):343-353.
DOI:10.1007/s10329-022-00986-2.
https://link.springer.com/article/10.1007/s10329-022-00986-2
Abstract
社会性は集団生活を送る霊長類に広く見られ、多くの面で有益である。メスのボノボ(Pan paniscus)における社会性は、オスの子殺しや性的強要に対するメス側の対抗戦略として進化したという説が提唱されている。オスが生まれた集団に留まるボノボ社会において、メスは主に血縁関係のない他のメスと関係を構築する。こうした社会関係の中で、乳幼児を持つメス(母親とも呼ばれる)同士は互いに強い関係を築く傾向があるという仮説(母親絆仮説:mother-bonding hypothesis)が提唱されてきた。
本論文では、コンゴ民主共和国のココロポリ・ボノボ保護区における野生ボノボ集団での乳幼児の死亡例を用い、この仮説を検証する。毛づくろい、近接、および攻撃性に関する2者間の社会性指標を用いることで、乳幼児の死亡が、その母親と他の集団メンバーとの2者間関係に影響を与えたかどうかを調査した。
乳幼児が死亡する前は、対象となった母親と別の母親との間で、毛づくろい指標(GI)と近接指標(PI)のスコアが最も高かった。死亡後、この母親2者間の関係は弱まり(GIおよびPIスコアの低下に示される)、一方で別の母親2者間の関係が強くなった。母親間の攻撃性指標のスコアは死亡前後で同等であり、母親間の親密な関係の変化が、相互作用全体の頻度の変化に伴う副産物ではないことが示唆された。また、死亡後に対象の母親と3頭の非母親(乳幼児を持たないメス)との間でPIスコアが上昇した。
総合すると、乳幼児の死亡後における対象の母親と他の集団メンバーとの社会的な動態のシフト(変化)は、母親絆仮説を部分的に支持するものであった。(杉林)
Paternal kin discrimination by phenotype matching in rhesus macaques.
アカゲザルにおける表現型マッチングによる父方血縁者の識別
Kazem, A. J. N., Widdig, A., & Bercovitch, F. B. (2014). Current Biology, 24, 1807–1810.
DOI: 10.1016/j.cub.2014.06.062
Paternal kin discrimination by phenotype matching in rhesus macaques: Current Biology
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3843825/
Abstract
親族認識は、縁故主義や最適な異系交配を通じて包括適度を高めることができる。父系親族を認識するメカニズムは、雌が乱交を行い、その結果として父性が不確実となる種において、特に注目されている。人間は、第三者の顔の中に親族との顔の類似性を検出することが知られている。また、この能力が非ヒト霊長類にも受け継がれていることを示すいくつかの証拠がある 。しかし、この傾向が、適応度上の利益を得るための重要な前提条件の一つである、自身の親族を識別する能力へと結びつくことを示した研究は、これまで存在しない。本研究では、野生のアカゲザル(Macaca mulatta)が、被験個体にとって見知らぬ個体である場合、父方の異母兄弟の顔画像と無関係な個体の顔画像を自発的に区別することを実証した野外実験の結果を報告する。具体的には、被験個体は、写っている個体が同性の場合(潜在的な脅威)、異性の場合(潜在的な配偶者)と比較して、非血縁者に対して体系的に観察時間を長く費やす傾向を示した。我々の結果は、視覚的表現型マッチングの強力な証拠を提供するとともに、自然環境下において個体が顔の特徴に基づいて自発的に父方の親族を識別できることを、霊長類において初めて実証したものである。(三代澤)
Allied male dolphins use synchronous displays to strengthen social bonds in a cooperative context
協力関係にあるオスイルカは,同期したディスプレイを用いて社会的絆を強化する
Sam H.-C., Emma C., Simon J. A., Richard C., Michael K., Danai P., and Stephanie L. K. (2025). Movement Ecology,13:84,1-13.
40462_2025_Article_603.pdf
https://link.springer.com/article/10.1186/s40462-025-00603-z
動物界では、ホタルからシオマネキ、カエル類から類人猿まで、多くのオスが繁殖の文脈で同期したディスプレイを行う。多くの場合、それは配偶者をめぐる競争の一環として行われるが、少数の種では協力的にシグナルを同期させる。例えばヒトでは同期行動は協力的なものであり、個体間の同期は親和性、協力能力、集団凝集性を高めることが知られている。興味深いことに、西オーストラリア州シャーク湾に生息するインド太平洋バンドウイルカの多層的なオス連合もまた、協力的な同期行動を示す。成体オスはペアまたは3頭組を形成し、発情中のメス1頭を協力して囲い込む。この際、オスたちは精巧な同期ディスプレイを行う。これらのディスプレイは、メスの周囲での同期した旋回、跳躍、浮上行動から構成されるが、その機能についてはこれまで明確ではなかった。本研究では、ドローンによる映像データと40年にわたる行動データを組み合わせ、オスイルカの同期ディスプレイに影響を与える社会的要因を調査した。その結果、オスは親和的接触行動を行った後に、より長時間同期ディスプレイを実施することが明らかになった。また、社会的結びつきの弱い個体同士ほど、より高い精度で同期を行っていた。これらの結果は、この個体群における音声同期に関する近年の研究と一致し、オスイルカが同期行動を用いて社会的絆を維持し、さらに強化していることを示している。本研究は、イルカがヒトと収斂的に、複雑で階層的な社会システムの中で複数の社会的関係を維持する手段として同期ディスプレイを利用していることを示唆する。(石渡)
開講日 | 2026年06月17日 13:00~16:15 場所 | E304