論文紹介(小野・吉岡)
学部4年の小野さんと吉岡くんが論文を紹介しました。
Domestic cats’ reactions to their owner and an unknown individual petting a potential rival
「飼い主と見知らぬ人が愛情を向ける潜在的なライバルに対する飼いネコの反応」
Bucher, B., Arahori, M., Chijiwa, H., Takagi, S., & Fujita, K. (2020), Pet Behaviour Science, 9, 16-33.
嫉妬は二次的な情動であり、その主な機能は、大切な関係をライバルから守ることである。嫉妬の基本的な形はヒト幼児で説明されており、ヒト以外の動物としてイヌでその存在が近年調査されている。現在の研究では、乳児やイヌに使用されている手順と同様の手順を使用して実験された飼いネコで、原始的な嫉妬がみられるかどうかを評価した。日本の世帯またはネコカフェから52匹の猫が募集された。飼い主が「社会的な」オブジェクト(潜在的なライバル:本物のような見た目のぬいぐるみのネコ)と非社会的なオブジェクト(毛皮のクッション)を撫でているのを見てのネコの行動が記録された。嫉妬は価値ある関係の文脈で表現されると考えられるので、(統制条件として?かな)見知らぬ実験者が同じ2つのオブジェクトを撫でた時のネコの行動も記録された。結果は、ネコ、特に飼いネコが、飼い主が撫でていたぬいぐるみのネコに対してより強く反応することを示した。しかし、ネコは2人のヒトに対しては異なる反応を示さなかった。乳児やイヌで嫉妬を示す他の行動がないことは、飼いネコでの嫉妬の存在について確固たる結論を導くことを不可能にする。我々は、ネコに嫉妬が現れるためのいくつかの認知的証拠の存在と、飼い主への愛着の性質に対するネコの生活環境の潜在的な影響を検討する。これらの問題をさらに研究するには、より生態学的に有効な手段が必要である。(小野)
Postweaning maternal care increases male chimpanzee reproductive success
「母親による離乳後の世話はオスのチンパンジーの繁殖成功率を高める」
Crockford, C., Samuni, L., Vigiland, L., & Wittig, R.M. (2020) Science Advances, 6, eaaz5746
ヒトは子供が大人になるまで世話を続けるという点で、動物として珍しい生き物であるといえる。この「長期にわたる依存」は、大きな脳、複雑な社会、生殖後の寿命の延長などといった、他のヒトの特性が進化した鍵であると見なされている。
したがって、この長期の依存関係は、親の投資によって生殖の成功率が上昇し、逆に親の喪失によって減少するという条件下で進化したといえる。私たちはこの仮説をヒトと同じように成熟までの期間を延長し、母親との長期の依存関係をはぐくむことのある野生のチンパンジーを用いて検証した。離乳後、成熟する前に母親を失ったオスは、繁殖の開始が遅れ、平均的な繁殖成功率が低くなった。したがって、離乳後も永続的な関係を築くこと(母親による資源投資はほとんど行われないが)は、オスの生殖の成功率を高めるために不可欠であるように思われる。これらの関係性は複雑な社会における繁殖を成功させるための要因として有益な情報であり、長期にわたる依存の進化における洞察となる。(吉岡)
開講日 | 2020年11月11日