Seminar

進捗報告(野崎)、論文紹介(砂後谷・杉林)

修士1年の野崎が修論研究の進捗報告を行いました。

また、3年生の砂後谷さんと杉林さんが論文紹介を行い、皆で議論しました。

・論文紹介(杉林)
Commentary on the Adaptive Significance of Sociality Around Parturition Events, and Conspecific Support of Parturient Females in Some Social Mammals
分娩期における社会的行動の適応的意義と、社会的哺乳類に見られる出産中の仲間による支援についての考察
Connie Allen Wild  and Lisa Yon. (2024). Animals, 14(24), 3601.
DOI:10.3390/ani14243601
 
Abstract

近年、多くの社会的哺乳類における分娩時に、群れの仲間から出産中の雌(およびその新生児)へ向けられる社会的支援行動が存在することが明らかになってきた。こうした行動は、非ヒト霊長類、ゾウ科、クジラ類、コウモリ類といった多様な分類群において報告されており、それらは母系集団、協同繁殖群、複数雄複数雌群など、さまざまな社会構造の中で見られる。

人間においては、分娩に関連する社会的行動が母親と新生児の健康に多くの利益をもたらすことが示されている。したがって本論考では、他の非ヒト社会性哺乳類における社会的支援行動の適応的意義についても検討する。

もし、適切な社会的環境が出産中の雌の難産リスクを低下させ、さらに出産後の新生児への反応性を高めるとすれば、分娩前後の社会的環境は、最終的に母子双方の適応度(fitness)に大きな影響を及ぼす可能性がある。これは理にかなっている。なぜなら、出生時の新生児の健康状態と強固な母子関係の確立は、哺乳類の子が独立するまで生き延びるうえで最も重要な要因の一つだからである。

また、血縁淘汰(kin selection)や同盟関係の強化(alliance enhancement)の原理は、出産中の仲間を支援する個体が得る適応上の利益、すなわちそのような行動をとることによって得られる選択上の優位性を説明する助けとなるだろう。特に、多産歴のある高齢の雌は、出産経験が豊富であることから、群れ仲間の分娩を支援するうえで重要な役割を果たすと考えられる

さらに、社会的出産(social birth)は、群れ内での水平的な情報伝達(horizontal information transfer)にも大きな影響を与える可能性がある。特に、長寿で高い認知能力を持つ社会的哺乳類(例:非ヒト霊長類、ゾウ科、クジラ類)では、出産の目撃、出生直後の新生児の反応、母親による育児行動、さらには他個体の子の世話(allomaternal care)への関与などが、未経産(初産未経験)の雌の正常な発達に不可欠である場合がある。これらの経験は、彼女たちが将来自身の出産に備える助けとなり、自分自身と第一子の生存率を高める可能性がある。

したがって、高度に社会的な種において、母親とその子の健康および生存率を向上させる上で、社会的出産が持つ重要性とその特徴について、より深い理解を得ることが極めて重要である。

本論考の目的は、これら相互に密接に関連するテーマに関する現時点での理解を整理・統合することである。今後は、非ヒト社会性哺乳類の分娩行動を、飼育下・野生下の両方で観察し得る幅広い分野の関係者(動物園職員、野生動物ツアーガイド、家畜ブリーダー、先住民、動物行動学者など)による学際的な知見の蓄積が、社会的環境がこの稀でありながら極めて重要な生命イベントに与える影響の理解を深める上で、決定的な役割を果たすだろう。

 
・論文紹介(砂後谷)
 A Report on the Behavior of Solitary Elephant Enrichment Practices in Yuki Park Zoo  
単独飼育アジアゾウの行動調査報告
ー甲府市遊亀公園付属動物園におけるエンリッチメントの試みー
Nakamura.S・Kondo.G・Namiki.M
帝京科学大学教育・教職研究, 6(2), 79-85.
 
Abstract
日本の動物園で単独飼育されているゾウは,国際的な飼育基準から動物福祉上の問題を指摘されているが,アジアゾウを単独飼育している甲府市の動物園では,飼育環境を豊かにする試み(エンリッチメント)を継続している.本学動物園動物学研究室は,2018年から2020年にかけて卒業研究の一環で行動調査を継続してきたので,その成果を報告する.調査方法は直接観察により,分析は,エンリッチメント導入の前後期間で行動発現割合を比較することによった.その
結果,鼻での操作・砂浴び・採食の発現割合が有意に増加し,常同行動・移動・立ち止まりの発現割合が有意に減少した.また,常同行動の発現割合を時間帯別に比較したところ,飼育者から直接的ケアを受けることも常同行動減少に効果的であることが示唆された.今後は,ケアの内容も含め,さまざまな行動レパートリーが増えるようなエンリッチメントの工夫に対する調査が必要である.

開講日 | 2025年10月29日 13:00~16:15 場所 | E304