第4回 合意と共創(Consensus) 研究会

合意と共創は、人間社会を豊かにするために重要な人類の根源的な活動であり、これらの仕組みの解明、支援システムの構築、学際的研究についての意見やアイデアの交換、及び、学術コミュニティ発展の場として、研究会を立ち上げました。第4回目の研究会では,「合意と共創」に関係する発表を幅広く募集しておりますので、皆様のご参加をお待ちしております。

合意と共創(Consensus)研究会(第4回)
【日程】2024年2月21日(水)9:30~18:00
【場所】北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟W408室(オンラインとのハイブリッド開催)

主催:電子情報通信学会特別研究専門委員会「合意と共創」(Consensus)
共催:
北海道大学 社会科学実験研究センター
JST CREST「ハイパーデモクラシー:ソーシャルマルチエージェントに基づく大規模合意形成プラットフォームの実現」
人工知能学会 市民共創知研究会

重要日程
参加登録締切:2024年1月31日(水)

発表申し込み締切:2024年1月31日(水)

論文投稿締切:2024年2月14日(水)

論文原稿フォーマット:tex, or word

北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟 HP

【発表プログラム】

9:35~10:15 招待講演1

小倉 有紀子 (北海道大学 社会科学実験研究センター・JSTさきがけ研究者)

10:15~10:55 招待講演2

上島淳史(東北大学大学院・日本学術振興会)

11:15~11:55 一般セッション1

11:15~11:35 社会の分断と価値観集団:2022年9月の《究極の選択》社会調査の結果から(オンライン)

大庭弘継,一方井祐子,井出和希,笠木雅史,菊地乃依瑠,髙木裕貴,玉澤春史

11:35~11:50 クロな熟議評価に向けた試論:熟議システム論の視座と東京都太陽光義務化条例の事例から

中澤高師,辰巳智行

13:00~14:40 一般セッション2

13:00~13:20 ハイパーデモクラシーシステムに向けて:複数エージェントによる議論支援の試み

伊藤孝行,Yihan Dong,Jawad Haqbeen,松尾徳朗

13:20~13:40 Peer-selected “best paper”– are they really that “good” from the audience perspective point of view? Case of an international conference

Jawad Haqbeen, Sofia Sahab, Takayuki Ito

13:40~14:00 オンライン議論における大規模言語モデルを用いた階層分析による合意案の自動生成

小西悠太,伊藤孝行

14:00~14:20 集団思考を防止するLLMエージェントの実装

清水貴史,丁世堯,伊藤孝行

14:20~14:40 オンライン議論における注目コンテンツ抽出

王治中,谷文,太田光一,長谷川忍

14:50~16:30 一般セッション3

14:50~15:10 多様な視点の議論を促すための発言と論点の自動関連度評価・可視化システムの試作

石塚光,白松俊

15:10~15:30 行政文書の理解支援のためのLLMによる構造化・可視化システムの試作

牟田真悟,白松俊,川島壮生

15:30~15:50 問題提起とアイデア創出を行う異種エージェントの協力によるブレインストーミング支援システムの試作

野村萌華,伊藤孝行,丁世堯

15:50~16:10 数理議論のRanking-based semanticsにおけるpropertyの関係性の考察

林謙吾,伊藤孝行,蟻坂竜太

16:10~16:30 日本語テキストの局所的な談話構造とその階層性に基づくグラフ化手法の提案

新居恵一郎,蟻坂竜太,丁世堯,伊藤孝行

16:40~18:00 一般セッション4

16:40~17:00 Discourse Quality Index (DQI)に基づく大規模言語モデルを用いた発言の自動分類

森一仁,丁世堯,大沼進,相馬ゆめ,伊藤孝行

17:00~17:20 議論フレームと少数意見の反映における関連の検討:意見の違いを乗り越える集団討議のあり方とその帰結

相馬ゆめ,植穂奈美,柴田侑秀,辻本光英,崔青林,中澤高師,辰巳智行,有馬淑子,大沼進

17:20~17:40 異なる方法を組み合わせた討議データの複眼的な分析:福島県除去土壌問題を題材としたオンライン・ディスカッションの分析事例

崔青林,柴田侑秀,原大拓,相馬ゆめ,辻本光英,大沼進

17:40~18:00 除去土壌県外最終処分における信頼と社会的受容:市民参加ワークショップ参加者に対する質問紙調査に基づいて

柴田侑秀,崔青林,相馬ゆめ,辻本光英,植穂奈美,木原なな, 髙本真依子, 保高徹生, 大沼進

【学生最優秀発表賞】

森 一仁

Discourse Quality Index (DQI)に基づく大規模言語モデルを用いた発言の自動分類

【学生優秀発表賞】

石塚 光

多様な視点の議論を促すための発言と論点の自動関連度評価・可視化システムの試作

野村 萌華

問題提起とアイデア創出を行う異種エージェントの協力によるブレインストーミング支援システムの試作

相馬 ゆめ

議論フレームと少数意見の反映における関連の検討:意見の違いを乗り越える集団討議のあり方とその帰結

【招待講演者】

発表者氏名:小倉有紀子(北海道大学社会科学実験研究センター・JSTさきがけ)

略歴:2009年北海道大学理学部生物科学科卒業、2014年北海道大学生命科学院生命システム科学コース博士後期課程修了。博士(生命科学)。日本学術振興会特別研究員PD、東京大学人文社会科学系研究科特任助教などを経て現職。

発表タイトル:社会価値融和の認知・神経基盤の解明に向けて

発表タイトル(英語):Toward understanding the cognitive and neural basis of social value convergence

概要:近年、SNSなどの発展により、「社会の分断」の可視化が進んでいると言われている。異なる価値観を持った人々が社会でいかに共存しうるかを検討することは、現代社会における喫緊の課題である。一方、人々の価値観や「ものの見方」は必ずしも固定されたものではなく、相互作用によって変化しうるものである。
 報告者はこれまでの研究で、人々の「ものの見方」が相互作用を通じて融和する過程の認知・神経基盤を明らかにした(Kuroda, Ogura, Ogawa, Tamei, Ikeda and Kameda 2022 Communications Biology)。ただしこの研究では、客観解のある物理刺激に対する「ものの見方」が融和する過程を扱っていた。現実社会で見られるような、客観解のない社会的価値判断においても、同様に他者との相互作用による融和が起こるのだろうか?
 そこで報告者は、人々が議論して合意の上、他者への資源分配方法を決める過程を調べる実験を行った。最初のパートでは、実験参加者は単独で見知らぬ他者にお金を分配する方法を決めた。次に他の参加者と議論し、他者への分配方法について合意して決めた。最後のパートでは参加者は単独に戻り、他者への分配方法を決めた。最初のパートと最後のパートとで人々の意思決定パターンがどのように変化したかを調べた。結果、最後のパートではペア内で意思決定パターンの融和が起こっていた。また、ある種の会話パターンがマキシミン主義(最低額の重視)への収束を予測することも明らかになった。今後はこの融和過程の神経基盤に踏み込んだ研究を進める計画である。

概要(英語):The recent development of social media has brought to light the “moral divide,” making it imperative to examine how individuals with different values achieve conviviality is an urgent issue in modern society. On the other hand, people’s values and perspectives are not necessarily fixed, but can change through interaction.
  In our previous study, I clarified the cognitive and neural basis of the process of convergence of people’s perspectives through interaction (Kuroda, Ogura, Ogawa, Tamei, Ikeda and Kameda 2022 Communications Biology). However, this study dealt with the process of reconciliation of perspectives in response to physical stimuli with objective solutions. Does similar convergence occur in social value judgments without objective solutions, as in the real world, through interaction with others?
  I conducted an experiment to examine the process of deciding how to distribute resources to others through discussion and consensus. Initially, participants independently decided how to distribute money to strangers. Subsequently, they discussed it with other participants and agreed on how to distribute the money to others. Finally, participants returned to being alone and decided how to distribute the money to others. The study aimed to analyze changes in decision making patterns between the initial and final stages. The results revealed a convergence of decision-making patterns in the final stage within the pairs. Furthermore, specific conversation patterns were found to predict convergence towards Maximin (emphasizing the minimum amount). Future research will focus on exploring the neural basis of this convergence process.

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発表者氏名:上島淳史(東北大学大学院・日本学術振興会)

略歴:2016年東京大学文学部卒業(学士(社会学))。2021年東京大学人文社会系研究科修了(博士(社会心理学))。2021年から現在まで日本学術振興会特別研究員PDとして東北大学大学院文学研究科に所属。専門分野は社会心理学。

発表タイトル:どのような資源分配原理が合意の共通基盤となり得るか:行動実験によるアプローチ

発表タイトル(英語):What Principles of Resource Allocation Can Form a Common Ground for Consensus? An Approach through Behavioral Experiments

概要:人間は「限られた資源をいかに分けるべきか」について、日常的に合意を形成する必要がある。それゆえに、人々に支持されやすく、人々の合意の共通基盤となりうる資源分配の原理を経験的に解明することは重要である。このような問題に対して、本報告では、(1)合議において共通に支持される分配原理、(2)テクストデータに内在する意味表現としての分配原理、(3)実験と機械学習の組み合わせで発見される分配原理を対象に、社会心理学実験を用いてアプローチした知見を報告する。研究(1)は、社会における最も恵まれない人々への配慮(マキシミン的配慮)が、公正な資源分配について人々が合意する際の心理的共有基盤として機能する可能性を示唆している。しかしながら、本報告ではマキシミン的配慮をはじめとするすでに確立された規範的分配原理のみでは捉えきれない、より複雑なニュアンスを持つ分配原理について研究(2)と(3)にて報告する。

概要(英語):Humans need to regularly reach a consensus on how to allocate limited resources. Thus, empirically clarifying the principles of resource distribution that are likely supported by people and can serve as a common foundation for their consensus is important. In addressing such issues, this report presents findings using social psychology experiments on (1) distribution principles commonly supported in deliberation, (2) distribution principles inherent in text data, and (3) distribution principles discovered through the combination of experimentation and machine learning. Study (1) suggests that consideration for the least advantaged people in society (maximin consideration) may function as a psychological shared base when people agree on fair resource distribution. However, this report also discusses more complex nuances of distribution principles that cannot be fully captured by established normative principles such as maximin concern, as reported in studies (2) and (3).

人々は集団で協力するために、合意し共創することで、新しい道具、アイデア、社会システムを発明し進化を遂げてきた。人々の間の合意や共創の理論、モデル、シミュレーション、その応用は、学際的かつ根源的なテーマである。さらにインターネットやソーシャルネットワークの劇的な発展により、人々のコミュニケーションの在り方自体が変化している。

世界中どこにいても、瞬時につながっている状況が実現されている。これはハイパーコネクビティと呼ばれ、人類が誕生以来初めて直面する状況である。ハイパーコネクトな状況での、合意や共創を探求することが極めて重要である。すなわち、本研究会では、情報技術を前提とした、今後の合意や共創の仕組み、システム、その応用について議論を深める。

合意は、人類が協力関係を築き、平和で公平な社会を構築し、世界各地で現実的に展開される紛争を解決するために重要である。ゲーム理論、意思決定、AI、マルチエージェント、紛争、調停、政策決定、シミュレーション、などの各分野で研究が進んでいる。キーワードとしては、合意形成、意思決定、ゲーム理論、ナッシュ均衡、メカニズムデザイン、協力ゲーム、交渉ゲーム、人工知能・マルチエージェントの自動交渉、合意メカニズム、社会シミュレーション、プロセスデザイン、紛争合意、法的合意、調整、調停、市民参加、社会的受容、手続き的公正、政策決定、社会的合意形成、ゲーミングシミュレーション、合意情報学、コレクティブインテリジェンスやその関係キーワードである。

共創は、様々なステークホルダーと協働して共に新たな価値を創造することであり、まさに人類にとって重要な活動である。特に、ハイパーコネクトな状態での共創は、これまでの共創プロセスをさらに進化させたプロセスとなる。共創には、問題解決、創造学、発想支援、知識科学、デザイン学、建築デザイン、都市計画、AI、マルチエージェント、CSCW、ユーザインターフェース、身体知、身体的インタラクション、創造情報学、シビックテック、クラウドソーシング、などの各分野で研究が進んでいる。また、共創の研究を進める上で共創の基礎となる創造性や発想の学術的基礎が重要になる。個人の創造性、デザイン方法論、芸術創作過程、デザインコンセプト、創造工学、スタートアップなども関連し、さらには創造性教育や理数科系教育も重要なトピックで広く議論されている。

共創と合意は、人間社会を豊かにするために重要な人類の根源的な活動であり、これらの仕組みの解明、支援システムの構築、学際的研究についての、意見やアイデアの交換及び、学術コミュニティ発展の場として、本研究専門委員会を創設する。

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