小倉有紀子(JSTさきがけ研究者/北海道大学 社会科学実験研究センター 特任助教)
日時:2023年2月16日(木) 14:45~16:15
場所:北海道大学 文学研究院 E棟E304室(Zoomとのハイブリッド開催)
(オンライン参加)https://us06web.zoom.us/j/84129588474?pwd=aU9zZ1lEOVA2bnp5SDdab2NMc1M1UT09
タイトル:「ものの見方」が融和する認知・神経メカニズム - 共生の条件の解明に向けて
スピーカー: 小倉有紀子(JSTさきがけ研究者/北海道大学 社会科学実験研究センター 特任助教)
概要:
近年、SNS等の発達も相まって、「社会の分断」の可視化が進んでいると言われている。異なる価値観を持った人々が社会においていかに共存しうるかを検討することは、現代社会における喫緊の課題である。
一方で、人々の価値観、あるいは「ものの見方」は、必ずしも不変なものではない。むしろ、人々の間の相互作用を通じて変わりうるものである。
発表者はこれまでの研究で、人々の「ものの見方」が相互作用を通じて融和する過程の認知・神経基盤を明らかにしてきた(Kuroda, Ogura, Ogawa, Tamei, Ikeda and Kameda 2023 Communications Biology)。一連の実験において、参加者はペアを組んでドットの数を推定し、自他の推定結果をフィードバックされた。その結果、「パートナーに合わせるように」とは教示されていないにもかかわらず、二者のドットに対する反応関数(=ものの見方)のパラメータが似通ってきた。加えて、反応関数パラメータは相互作用を通じて安定化した。この過程の神経基盤を解明するため、次にfMRIを用いた計測を行った。参加者は自分に歩み寄る「Aさん」、歩み寄らない「Bさん」とともに、ドットの数を推定する課題を行った。相手が「Aさん」つまり自他が相互に歩み寄った場合、反応関数パラメータは安定化し、他者の状態推定に関わる脳領域であるRTPJとDMPFCとの機能的結合が増大した。「Bさん」つまり相互収束を行わない相手の場合、RTPJ-DMPFC機能的結合増大や反応関数パラメータ安定化は生じなかった。人々の「ものの見方」が相互作用を通じて「共有現実」に収束する過程では、他者の視点を取得するのに用いられる神経回路が主要な役割を果たしていると示唆される。
では、ドットの数という客観的な対象の判断に留まらず、社会的価値判断を含む場合でも、このように相互作用に基づいた融和が起こりうるのだろうか?
先行する行動実験(Ueshima, Mercier & Kameda 2021 Journal of Experimental Social Psychology)のデータの再解析から、分配的正義に関する価値判断を人々が求められた場合においても、相互作用(対話)を通じて価値観の融和が生じる可能性が明らかになった。この融和は客観的対象の判断と同じメカニズムで生じるのだろうか、それとも異なっているのだろうか?
今後の研究の展開可能性について議論したい。
参加者:28名