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ワークショップ

2021

進化生態学から考える個体の「ばらつき」 ~分業の進化と意思決定における個性~

日時: 7月29日(木) 14:45~16:15
場所: Zoomでのオンライン開催
話者: 伊藤公一研究員 (京都大学生態学研究センター, 8月より北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所)

参加者:17名

タイトル:進化生態学から考える個体の「ばらつき」 ~分業の進化と意思決定における個性~

アブストラクト:
自然界の生物には、しばしば個体間で形質のばらつきがみられる。本発表では、こうした個体のばらつきが生じうるシチュエーションに注目した二つの研究を紹介する。一つは社会性生物における分業の進化である。アリやシロアリなどの社会性昆虫では、しばしばワーカーの体サイズや顎サイズに多型がみられる。このようなワーカーの多型は、一般に餌運搬と防衛など、異なるタスクへと特殊するためだと考えられているが、コロニーにとってのタスク量が一定でない場合にはそうしたスペシャリストよりジェネラリストをもった方が有利かもしれない。本研究では、タスク量の環境変動のパターンが、最適なコロニー内の分業様式に大きく影響を及ぼしうることを示す。もう一つのシチュエーションが、社会的相互作用の下での個性の進化である。自然界ではしばしば、大胆さや攻撃性、協調性などに個体差(いわゆる「個性」)が存在することが知られている。これまで様々な個性の出現を説明する理論が提案されてきたが、こうした理論の多くは限定的な条件の下でしか成り立たないか、せいぜい数タイプの極端な振る舞いを予測するものだった。そこで、本研究では変動環境下における意思決定に注目した新たな理論モデルを提案する。相互作用の相手が限られる場合には、環境がある閾値を超えると行動を変化させるような「閾値応答」が最適な意思決定様式となるとともに、集団中に閾値の連続分布が普遍的に生じうることを示す。これら二つの理論研究の紹介を通して、個体の「ばらつき」の進化について進化生態学の考え方をご紹介する。