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ワークショップ

2017

巣仲間との社会的接触による、アリの社会防衛に関する適応的行動の維持

日時:2017年7月6日(木)10:00-12:00

場所:北海道大学文学研究科 E304教室

参加者:結城雅樹、竹澤正哲、大沼進、高橋伸幸、高橋泰城、瀧本彩加、他14名(計20名)

スピーカー:長谷川 英祐 准教授(北海道大学大学院農学研究院 環境資源学部門 生物生態・体系学分野 動物生態学研究室)

タイトル:巣仲間との社会的接触による、アリの社会防衛に関する適応的行動の維持

アブストラクト:
野生動物は,生存に必要な資源を全て周りの環境から入手しなければならない。ゆえに、通常回りの資源を競争者から防衛する。定住性動物のテリトリー防衛はその代表である。テリトリー防衛は危険な仕事で、アリではテリトリー防衛のための戦闘により、防衛ワーカーが死ぬことがあることも分かっている。ほとんどのアリは決まった場所に巣を持ち、その回りから資源を獲得する。同種は全く同じニッチ(生態的地位)を持つので、資源を巡る最大のライバルであり、アリは同種であっても他コロニーのメンバーを通常攻撃する。この10年ほど、無脊椎動物が物理的なストレスを受けると、その行動に変化が見られ、多くの場合、悲観的将来予測や鬱状態と同様の反応を示すことが分かってきており、そのような状態が脳内アミンにより制御されていることが示唆されている。では、社会性昆虫のテリトリー防衛など、社会防衛のための行動はストレスによって影響を受けるだろうか?シワクシケアリの3コロニーを用い、1コロニーから20匹のワーカーをランダムにとり、同一の他コロニー由来のワーカーと出会わせ、その後1分間の相手への攻撃行動を6段階にスコアリングし、平均攻撃スコアがほぼ等しくなるよう2群に分け、1群にだけ1400rpm、30秒間の振動を物理的ストレスとして与え、5分後に全個体の攻撃スコアを、同一の相手に対して再測定した。ストレス付与群のみ、攻撃スコアが有意に低下し、報酬としてのしょ糖液とともに単独で放置した場合には、その低下は24時間経っても回復しなかった。また、攻撃性が低下した群では、脳内アミンの1種であるセロトニンの脳内量の有意な増加が見られた。セロトニンを経口投与で与えた場合、ストレスを与えなくても濃度に応じて攻撃性が低下し、抗セロトニンレセプター剤(セロトニンと神経細胞の結合を阻害する)を与えた場合、ストレスを与えても攻撃性の低下が濃度に応じて抑えられた。また、個体識別をした個体で、ストレス付与後の攻撃性低下を確認した上で、自分の巣に戻し2時間放置した後再測定すると、ストレス付与前と同じレベルまで攻撃性が回復した。これらのことより、巣仲間と接触することにより、社会防衛という自らを危険にさらすリスキーな仕事を行う、適応的な行動が維持されていることが分かった。これらの結果から、無脊椎動物における社会性の進化に,コロニーの存在自体が果たす役割について議論したい。