題目: 社会的現実の反映としての原因帰属“バイアス”—プライミング法による検討

氏名: 谷 千明

担当教員: 結城 雅樹


他者や自己を含む人々の行動の原因を推論することを、社会心理学においては原因帰属と呼ぶ。近年の比較文化研究によって、原因帰属傾向には文化差が存在することが明らかになってきた。東アジア人は北米人に比べて、他者の行動の原因を外的要因に帰属する傾向が強く、内的要因に帰属する程度が弱いということである。本研究では、そのような原因帰属傾向の差異が、関係流動性という社会生態学的環境要因によって説明可能であると仮定した。

関係流動性とは、ある社会や社会状況において、必要に応じて新たな対人関係を形成できる機会の多さと定義される。関係流動性の低い社会では、新たな対人関係を作る機会が少ないため、既存の関係から排斥されるコストが大きい。よってこのような社会では、人々の行動は対人関係という外的要因によって拘束されることが多くなり、その合理的な結果として、人々は他者行動を外的要因に帰属しやすくなる(内的要因に帰属しにくくなる)と考えられる。一方、関係流動性の高い社会では、新たな対人関係を作る機会が多いため、既存の関係から排斥されるコストは小さい。よってこのような社会では、対人関係という外的要因によって行動が拘束されることは相対的に少なく、人々の行動はその人の内的特性を反映することが多くなり、その合理的な結果として、人々は他者行動を内的要因に帰属しやすくなる(外的要因に帰属しにくくなる)と考えられる。

つまり、これまで見られてきた原因帰属傾向の文化差は、関係流動性が異なる社会における生態学的に妥当な意志決定方略であると考えられる。この仮説の検証のため、状況プライミング法を用いて人々の関係流動性知覚の高低を操作し、人々の原因帰属傾向に相違が見られるかを検討することで、関係流動性と原因帰属傾向の因果関係の特定を試みた。

その結果、帰属の信念について、上記の仮説を支持する差異が見られた。帰属の信念には、人間の行動は内的な要因によって生起すると考える特性信念、外的な要因によって生起すると考える状況信念の二種類がある。本研究では、低関係流動性プライミングを受けた参加者の方が、高関係流動性プライミングを受けた参加者に比べて状況信念が有意に強かった。つまり、関係流動性知覚が低くなると、人々の行動を外的要因に帰属する傾向が強くなるという結果となり、関係流動性が原因帰属傾向に影響するという因果関係が確証された。


卒業論文題目一覧