題目: 関係流動性がステレオタイピングに与える影響‐日米比較実験を通じた検討‐

氏名: 竹内桂佑

担当教員: 結城雅樹


本研究の目的は、人々が集団ステレオタイプを使用して他者の内的特性を予測する程度に、関係流動性の違いによる社会差があることを明らかにすることである。

ステレオタイプとは、特定の集団や社会的カテゴリの成員が共通して保持する内的特性についての情報である (Lippmann, 1922)。関係流動性とは、ある社会、または社会状況に存在する、必要に応じて新しい対人関係を形成できる機会の多さである (Yuki, Schug, Horikawa, Takemura, Sato, Yokota & Kamaya, 2007)。この関係流動性の違いは、集団の成員が集団特性 (集団成員らしさ) を内面化する程度に影響する。低流動性社会の日本では、新規対人関係形成の機会が少ないため、人々は所属集団の規範に逸脱しないように行動する必要があり、徐々に集団特性を内面化する程度が高い。一方高流動性社会のアメリカでは、人々は自発的に集団を選択できるため、集団成員らしさを既に備えた上で集団に所属する場合が多く、集団特性を内面化する程度は低いと考えられる。

また、本研究では関係流動性の高い社会において集団ステレオタイプは、その集団の文脈を越えた状況一般的な他者行動に対する予測力を持つと想定している。高流動性社会において人々は元々、所属集団のステレオタイプに合致した個人特性を備えている。そのため、集団の外で活動している状況においても、人物の内的特性を予測する上で、集団ステレオタイプを使用して判断することは有効であると考えられる。

以上の議論から、以下の仮説を立て、日本とアメリカで検証した。低流動性社会では、集団に所属したての成員に比べ、古くから所属する成員は、より集団のステレオタイプに合致した特性を保持していると知覚されるのに対し、高流動性社会においては、両者がステレオタイプに合致する特性を保持していると知覚される程度に差は無いだろう (仮説1)。低流動性社会では、ある特定の集団文脈から外れた他者に対してはステレオタイプが適用されないのに対し、高流動性社会では、集団文脈が変化しても他者に対してステレオタイプが適用される程度は変化しないだろう (仮説2)。

これらの仮説検証のため、本研究は日米で実験を行った。実験はまず、架空の集団:グループYに対する印象を操作し、集団ステレオタイプを参加者に形成させた。その後、シナリオ質問紙を使用し、グループYの所属期間の異なる各成員に対する内的特性予測が、日米でどのように異なるかを調査した。その結果、仮説1を支持した結果が得られたものの、仮説2を支持した結果は得られなかった。つまり、日本人は所属期間の長い成員は短い成員よりも、集団特性を保持している程度が高いと予測し、アメリカ人は所属期間を問わず、集団の成員は、集団特性を備えている程度が高いと予測することが示された。


卒業論文題目一覧