題目: 不確実性に対する選好が分配的公正感に与える影響‐平等・衡平・パレート原理に着目して‐

氏名: 武井 啓

担当教員: 亀田 達也


今日、日本は世界同時不況の影響を受けて深刻な不景気に陥っている。こうした情勢の中で、効率性を重視する資源分配方法への評価が高まっているが、一方で全ての人が均等となる資源分配方法も強く求められている。どちらの分配方法を好むかは、個人の価値観によるものであるが、この価値観の相違はどこから来ているのだろうか。

これまで分配方法に対する選好は、不確実性に対する選好と同一のプロセスを拡張したものであると考えることができると言われてきた(Vickrey, 1945; Harsanyi, 1955; Stern, 1997; Christiansen & Jansen, 1978; Amiel et al., 1999)。そこで本研究では、本当に分配方法に対する選好と不確実性に対する選好との間に関連性があるかを実証的に検討した。また、全員が望ましいと考える分配方法は存在するのかについても検討した。加えて、分配方法や不確実性に対する選好が異なることで、パーソナリティ属性に体系的な相違が見られるかを検討した。

上記の仮説を検討するために本研究では、分配方法に対する選好を測定する尺度として望ましい分配尺度(大坪・亀田・木村, 1996)を用いた。不確実性に対する選好を測定する課題としてはProbability Discounting課題(Rachlin et al., 1991)を、パーソナリティ属性を測定する尺度としてはAffective Neuroscience Personality Scale(Davis et al.,2003)を用いた。

質問紙による検討の結果、資源の分配方法に対する意見が社会の構成員全員について一致することは極めて困難であることが示唆された。分配方法に対する選好と不確実性に対する選好との間には、獲得・損失両場面においてパレート改善を望む人ほど不確実性を好む傾向が、平等分配よりも公平分配を望む人ほど不確実性をやや好む傾向が見られた。分配方法に対する選好とパーソナリティ属性との間には、ロールズ型の社会的厚生基準を好む人は日頃から周囲に気を遣うことが多く、功利主義型の社会的厚生基準を好む人は逆に日頃から周囲の人を気にしないという傾向が見られた。また、不確実性に対する選好とパーソナリティ属性との間には、損失場面において不確実性を回避する人は日頃から周囲に気を遣うことが多く、孤独な状況を回避するという傾向が見られた。


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