題目: 協力場面における賞罰行動の社会比較研究 —日米での実験的検討—

氏名: 千徳優璃

担当教員: 結城雅樹


社会的ジレンマ状況におけるフリーライダー問題の解決策の一つとして、非協力者への罰行使を行うシステムの存在が有効であると指摘され、更に、その効果は、アメリカ人よりも日本人において顕著であるとの社会差の存在も示されてきた (Yamagishi, 1988) 。一方、近年、社会的ジレンマ状況下では報酬を与えるシステムも集団全体の協力維持・向上に有効であることも示され (Rand, et al., 2009) 、少なくとも北米社会では、罰行使よりも報酬行使の傾向が高いとの結果も報告された (Kiyonari & Barclay, 2008; Sefton, et al., 2007) 。しかし、これらの賞罰の使用傾向を同時に検討した社会比較研究は存在しない。そこで本研究では、賞罰の使用傾向の社会差の原因が、社会の対人関係を形成できる機会の多さ、すなわち関係流動性 (Yuki, et al., 2007) の差異にあるとの仮説を提出し、実験的に検討した。

北米は、関係流動性が高い社会であり、集団所属性は自発的選択に基づく。よって内集団に協力者がいる場合、積極的に報酬を与えなければ逃げられてしまう可能性が高い。一方、日本は関係流動性の低い社会であり、集団所属は変更が難しい。よって協力者に逃げられてしまう可能性は低く、むしろ非協力者を罰して協力を強要しなければならない。以上より、本研究では、「非協力者への罰の使用傾向は、関係流動性の高い社会状況よりも低い社会状況で、強くみられるだろう。一方、協力者への報酬の使用傾向は、関係流動性の低い社会状況よりも、高い社会状況において、強く見られるだろう」との理論仮説を立てた。

実験では、参加者はコンピュータネットワーク上に形成された5人集団状況で社会的ジレンマゲームに参加した(実は他の参加者は存在しない架空の状況であり、他の参加者の行動は全て予めプログラムされたものであったが、参加者はそれを知らなかった)。関係流動性は、集団メンバーの移動可能性に関する教示を用いて操作した。参加者は、他の参加者の協力・非協力行動を観察した後、それぞれのメンバーへの報酬と罰の使用傾向の測定が行われた。

実験の結果、仮説とは異なり、関係流動性の高い状況下では、低い状況下と比べ、協力者への報酬も非協力者への罰もより多く使用する傾向が見られた。これは、集団主義文化の人々は個人主義文化の人々と比べて賞罰のいずれも用いにくいという葛藤解決に関する先行研究の結果と一貫している (Leung & Bond, 1982) 。なぜこのような結果が得られたかについて議論する。


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