題目: サンクションが非協力行動を誘発するメカニズム−社会的ジレンマを模した産業廃棄物ゲームを用いた研究−

氏名: 佐々木 麻里

担当教員: 大沼進


本研究では、産業廃棄物処理の流れをシミュレートした「産業廃棄物不法投棄ゲーム」を用いて、社会的ジレンマ状況におけるポジティブ・ネガティブのサンクションの効果について検証した。従来のゲーム理論では、社会的ジレンマ状況において、コストを無視できるなら監視・罰則を強化すれば非協力行動は減少するという前提がおかれていた。しかし、「産業廃棄物不法投棄ゲーム」を用いた先行研究で、北梶(2006)が管理票制度をゲーム内に再現することで、管理票による監視機能だけでは非協力行動の減少に効果がないことを示し、清家(2007)は産廃処理業界内部・外部に監視主体を設定したところ、監視の強化によって非協力行動は減少しないどころか増加する場合もあることを示した。

本研究ではサンクションの効果をさらに検討するために、それまでのゲームの構成に変更を加えた二つの研究を行った。研究1では、清家(2007)の研究で存在していたGメンの役割を、受苦者(Gメン被害者条件)と強い罰則の権限を持つ機関(Gメン罰金条件)の二種類に明確に区分し、Gメンの存在しないものを統制条件とし、強い罰則があるときに不法投棄(非協力行動)が減少するかどうかを検討した。研究2では、各業者が互いを監視する状況(相互監視条件)と、産廃を迅速に処理することで報酬が与えられる状況(報酬条件)を設定し、サンクションが存在しないものを統制条件とし、監視・罰則といった負のサンクションでなく、報酬という正のサンクションならば不法投棄を減らせるか検討した。なお研究2では、移動制限による情報の非対称性を取り除き、すべてのプレーヤーが移動可能となるようにするため、収集運搬業者を廃止し、3業者でゲームを行った。

研究1の結果、Gメン罰金条件の不法投棄量が突出して多く、統制条件の不法投棄量が最も少なかった。罰金条件では、とくに排出事業者が不法投棄をしており、排出事業者が情報共有の努力もせず、同業者とも他業者とも協力しないという傾向が顕著であった。研究2の結果は、報酬条件の不法投棄量が最も多く、次いで相互監視条件の不法投棄量が多かった。とくに報酬条件では、全体の利益には目が向きにくく、情報共有化も図られなかった。

これらの結果から、ポジティブ・ネガティブによらず、サンクションは協力行動を阻害し、非協力行動を増加させることがより強固な形で示された。


卒業論文題目一覧