題目: 年齢別殺人率の国際比較 -ユニバーサル・カーブをめぐって-

氏名: 光谷好貴

担当教員: 山岸俊男


長谷川寿一、長谷川眞理子による『戦後日本の殺人の動向 とくに,嬰児殺しと男性による殺人について』(2000)では、日本の若い男性の殺人率は他の年齢層に比べて非常に低く、それは世界的に見ても珍しいことであるとされている。世界的には、若い男性の殺人率は他の年齢層に比べて高くなっているのが普通であり、その傾向は「ユニバーサル・カーブ」と呼ばれている。しかしこれまでの先行研究では調査された国の数が少なく、ユニバーサル・カーブの普遍性について疑問があった。そこで有効な殺人統計の見つかったアメリカ、ドイツ、韓国、台湾について年齢別の殺人率を比較したところ、どの国においてもユニバーサル・カーブを描いていることが確かめられた。また、長谷川眞理子の別の論文『日本における若者の殺人率の減少 —よりよい社会を作るために—』では、日本の若者の殺人率が減少した理由の一つに、終身雇用や年功序列によって将来の見通しが立ちやすくなったことが挙げられている。そこで筆者は、日本の殺人率がユニバーサル・カーブを描かない理由について探索的に調査すべく、日本と同じアジアの先進国であり、社会状況も比較的類似していると思われる韓国の年功賃金の状況、労働市場の流動性、失業率、婚姻発生率を日本と比較した。次に、長期的な殺人率、失業率のデータが見つかった日本、アメリカ、ドイツの三ヶ国について、殺人率と失業率の相関分析を行った。日韓の比較では、どちらも年功序列の賃金体制である一方、労働市場に関しては韓国の方が流動的であり、また若い年齢層の失業率も高いということがわかった。また、婚姻発生率に関してはどちらの国民でも非婚化、晩婚化が生じていると考えられ、殺人率低下の直接的原因になっているとは考えがたい。しかし日本、アメリカ、ドイツの若い年齢層の殺人率と失業率の相関を調べたところ、どの国においても直接的な関連性は確認されなかった。以上の結果から、労働市場の固定性が殺人率の低下に深く関わっている可能性が考えられる。積み上げてきた実績や家族を守る必要性の小さい若者にとっては、年功賃金や失業の有無そのものよりも、競争をせずに生活出来るシステムであるかどうかの方が大切であると考えられるからである。男性による殺人動機はプライドや面子に関わるものが多く、競争心を煽る社会構造においては殺人も増えてしまうのではないだろうか。

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