題目: Change Blindnessにおける眼球運動研究 —間違いなし刺激を用いた間違い探しゲームの文化差は存在するか?—

氏名: 吉田一揮

担当教員: 山岸俊男


 これまでの先行研究から、東洋人は背景情報に注目しやすい一方、西洋人は中心に目を向けやすいことが明らかになっている。しかし本当に各文化における人々がそれに対応した眼球運動を行っているのかは不明であった。そこで「間違い探し(Change Blindness課題)」を用いた実験を行った。これは2つの似て非なる画像を見て、違う部分を当てる課題である。本研究では東洋人は画像を見る範囲が広く、背景の変化に気づきやすいが、西洋人は画像を見る範囲が狭く、中心の事物の変化に気づきやすいという仮説を立てた。さらに今回はダミー画像(間違いのない2つの同じ画像)を含めた条件も行い、「学習効果」の増減についても調べた。「学習効果」とは、実験を進めるうちに間違いの位置の規則性を学習することで、試行の後半において間違いを答えるスピードが速くなる効果のことである。もしもダミー画像の挿入により、間違いの位置の規則性が崩されるのなら、「学習効果」は薄れるだろう。

 実験は日本人163名、カナダ人180名を対象に行い、中心もしくは周辺における間違いに対する反応時間、画像の注視回数・注視時間を調べた。まず反応時間に関し、周辺に間違いがある条件において、ダミー画像がある場合の方がない場合よりも「学習効果」が小さくなった。また同様の傾向は、注視回数・注視時間の点においても見られた。これに加えて、文化に関わらず、周辺よりも中心における間違いに対する反応時間が短く、注視時間や回数の割合も多くなっていた。この結果は仮説に反していたものの、周辺に間違いがある条件における周辺への注視回数に関して、ダミー画像がない場合では両方の文化で「学習効果」が見られたのに対し、ダミー画像がある場合では、日本人においてのみ「学習効果」が見られるという興味深い文化差が得られた。ダミー画像により間違いの規則性が崩されても、日本人は周辺の間違いを探そうとした結果、実験の後半における周辺への注視回数が増加したのに対し、カナダ人は後半になるにつれそのような探索に飽きてしまったようである。先行研究における実験デザインでは、間違いの位置が固定されておらず、その規則性を学習することが不可能であったことから、人々はそのような自由な条件におおいてほど文化特有の注意配分の仕方を用いやすいと考えられる。


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