題目: 文化とフロンティア精神:北海道は日本における「北米」か? —選択による動機づけ効果から考える—

氏名: 津田英

担当教員: 山岸俊男


 これまで北米では相互独立的自己観、アジアでは相互協調的自己観がそれぞれ優勢であると言われてきた(Markus & Kitayama, 1991)。北米で相互独立的自己観が優勢な理由の1つとして、主に宗教的・経済的理由によるヨーロッパ人の移住が北米文化の礎を築き、西部開拓を推し進めた点が挙げられる。こうした経済的に動機づけられた自発的移住をする人々は元々独立性が高いと考えられるが、開拓地での厳しい社会環境がその独立性をさらに助長し、やがてフロンティア精神として外在化され、移住が過去の歴史となった現在まで受け継がれていると考えられる。

 Kitayama et al. (2006) はこの自発的移住仮説を検証するにあたり、相互協調的自己観が優勢とされる日本にありながら、自発的移住の歴史を持つ北海道に着目し、そこに住む道内出身と道外出身の日本人、本州出身・在住の日本人、北米在住のアメリカ人に対し実験を行った。結果はこの仮説に一致した。例えば先行研究 (Kitayama et al., 2004) によると、北米人は他者の存在と無関係に自己の選択の結果として認知的不協和を経験しやすいのに対し、日本人においては他者の想起があって初めてそのような不協和が経験されるが、道内在住の日本人の結果はその北米人のパターンと類似していた。

 本研究ではこの仮説をさらに確かめるために、ある課題を選択する際の他者の存在の有無がその後の課題に対する動機づけにどのような影響を与えるかを北海道において調べた。そして同様の手続きを用いてアメリカと韓国において実験を行ったNa and Kitayama (2008) との比較を試みた。認知的不協和の知見に基づくと、北米人は他者が存在しないときに選択した課題に対してより動機づけられるのに対し、アジア人は他者の存在が喚起されたときに選択した課題に対してより動機づけられることが予測される。実際、Na and Kitayama (2008) の結果はそれに符合した。そして本研究では、道内・道外出身者のいずれにおいても、他者が存在しない場合に強く動機づけられていたものの、他者の存在の有無に関する条件差は統計的に認められなかった。しかしこれらのパターンとNa and Kitayama (2008) における北米人のパターンとの間に差はなかったのに対し、韓国人のパターンとの間には有意差が見られ、間接的に予測は支持された。


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