題目: 売買か親交か−状況の定義が返報のタイミングの望ましさに与える影響

氏名: 髙岡陽太

担当教員: 高橋伸幸


 人は時によって、資源を提供した後即座に返報されることを望ましいことだと思ったり、逆に望ましくないと思ったりする。これは、返報のタイミングの望ましさを判断する基準は時によって異なるということだと考えられる。

 ここで言う経済的交換とは、実際に資源を提供する前に、提供しあう資源をお互いに確認し合意してから行う交換を言う。社会的交換はその確認と合意のプロセスがない交換を言う(Blau, 1964)。この定義から、この2つの交換は社会的不確実性を解消する方法が異なっていると考えられる。経済的交換では、予めお互いの提供する資源を確認することで、社会的不確実性を交換の前に解消できる。社会的交換では、交換の前に社会的不確実性を解消することは困難だが、相手と交換を繰り返すのであれば社会的不確実性は解消される。社会的交換では即座に返報する相手との交換関係は長期的なものになりにくいのなら、社会的交換状況ではそのような相手を望ましくないと思って避けるほうが適応的だろうと考えられる。

 本研究では、社会的交換状況では、即座に返報しない相手は、交換関係が長続きしそうで社会的不確実性が低い相手だと判断されて好まれるが、経済的交換状況ではそれらの要因は問題にならないだろうと考えた。

 その検証のため、回答者に社会的交換状況を描いた刺激文か経済的交換状況を描いた刺激文のどちらか一方を読ませ、刺激文中に登場する、それぞれ異なったタイミングで返報をする6人を、交換の相手に選びたいと思う程度で順位付けさせた。

 その結果、社会的交換状況におかれた人間は、経済的交換状況におかれた人間よりも、遅いタイミングで返報する相手を好むことが多いことがわかった。また、社会的交換状況においては、最も交換関係が長続きしそうだと思われた相手も、社会的不確実性が最も低いと見積もられた相手も、即座に返報する相手ではなかった。さらに社会的交換状況では、交換関係が長続きしそうだと思った相手や、社会的不確実性が低いと感じた相手を好む傾向があった。それに対して経済的交換状況では、相手の返報タイミングは交換関係の続く期間の予測にも社会的不確実性の認知にもあまり影響しておらず、またどちらも交換相手の選択にも影響してこないことがわかった。以上の結果は、仮説を概ね支持するものである。


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