題目: “好奇心”の概念的検討:遅延割引課題を用いた衝動性との関連について

氏名: 高橋英未

担当教員: 亀田達也


 人は好奇心という感情を持っている。これまで好奇心を扱った研究では、好奇心は情報の探索や近視眼的・衝動的な行動など様々な行動を引き起こすモチベーションという側面から盛んに研究されてきた(see Loewenstein, 1993)。これに対し、本研究では、好奇心という感情を、なんらかの適応課題を解くためのデバイスとして考え(亀田・村田, 2000)、どうして好奇心という感情が人間の中に備わっているのかという問いに対する答えを探ることを試みた。

 本研究では、生物は直面する様々な環境に対応すべく様々な性格特性や行動特性がパーソナリティとして組み合わされて存在しているだろうと仮定し、その一つの性格特性として好奇心という感情も何らかの形で生物の適応価を高めているため人間に備わっているのだと考えた。本研究では好奇心がどのような性格特性と組み合わされて存在しているのかを探る試みの第一歩として、先行研究で扱っている好奇心の概念の整理を行う。本研究では、“好奇心”を生物に環境から利益を得させるべく探索行動を行わせる感情(Panksepp, 1998)だと捉え、先行研究でひとくくりにされている情報探索などを行わせる性質と、放火などを引き起こすような衝動的な性質は、探索行動によって報酬を得るという適応課題を解く感情として同一個人の中に両立する性質ではなく、両者の間には負の相関関係があると予測した。なぜなら、ついつい衝動的に放火などを行ってしまうという性質は、探索行動を妨げ、その状況下では生物の適応価を下げる可能性が考えられるからである。

 本研究では探索行動を行わせるような好奇心の尺度としてANPSのSEEK(Davis et al, 2003)という性格尺度を用いた。また、衝動性の指標として、遅延割引課題を用いて、遅延を伴う報酬に対してその報酬の主観的価値を割り引く傾向(e.g. Fishburn & Rubinstein, 1982)を測定した。仮説を検証した結果、有意な相関関係は見られず仮説は支持されなかった。この理由として、本研究では遅延割引課題において金銭を報酬として用いたことが影響している可能性が考えられる。例えば、人間の遅延割引の仕方は報酬の性質によって異なっている(McClue et al, 2007)という予測がある。探索行動によって得られる報酬は、金銭などのこれまで生きてきた中で報酬だと条件付けられてきた報酬ではなく、生命活動維持に直結するような水や食物などの報酬だと考えられるため、本研究の仮説を検証するためにはさらに水や食物を報酬として近視眼性を測定し、SEEKとの関係を比較する必要があるだろう。


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