題目: Cultural Change Shock—現代の個人主義社会が日本人に与える心理的影響

氏名: 清水優樹

担当教員: 結城雅樹


 本研究の目的は、日本社会の文化変容とその変化に適応する人々の心の関係性を考察することである。近年の日本社会では、労働市場やそれに伴う就職活動、そして教育現場などに代表される様々な社会的文脈で個性や主体性が重要視され、日本社会が徐々に個人主義的な価値観を重視する方向へ変化している。そして、その変化に伴い、個人主義を主張するような文化的メッセージも社会に蔓延してきていると思われる。また、その一方で、近年になるにつれて気分障害の患者数、自殺死亡者数、引きこもりなどが急激に増え、人々が社会生活の中で抱える心理的負担が次第に増加しているように見受けられる。

 本研究では、このような心理的負担の増加の原因が社会の個人主義化にあるのではないかと考えた。すなわち、集団主義がその基層に根付いている日本人は、個人主義を重視する現代社会にうまく適応できず、心理的負担を抱えている可能性が考えられる。

 以上の議論から次の仮説を立てた。文化的メッセージが時代と共に個人主義化しているだろう(仮説1)。人々の心が急速に個人主義化する時代の変化に適応できず、心理的負担(ストレスレベルの増加やネガティブ感情の経験など)を感じているだろう(仮説2)。

 本研究では、社会の世相を反映する文化的メッセージとして流行歌の歌詞を題材にすることで、この仮説を検証した。まず、研究1で、コーディング手法を用いた歌詞の内容分析により仮説1を検証した。次に、研究2で、質問紙調査により各歌詞に対する参加者のストレスレベルやネガティブ感情を測定し、仮説2を検証した。

 調査の結果、研究1では、現代に近づくほど個人主義的な要素を含む歌詞が多いという仮説1を支持する結果が得られた。しかし、研究2では、年代が現代に近い歌詞においても、個人主義的な要素を含む歌詞においても、ストレスレベルやネガティブ感情は高まらないという仮説2を支持しない結果が得られた。しかしながら、曲の既聴経験別の探索的な分析の結果、既聴経験あり群では予測と逆の結果が得られたが、既聴経験なし群では予測と一貫するという興味深い結果が得られた。本研究の問題点として、質問紙回答者の年齢層が若年層に偏っていたことや、調査に用いた歌詞という題材が社会の世相を反映したものとして適切かどうかということが挙げられる。今後これらの問題点を改善し、仮説の検証をする必要があるだろう。


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