題目: 文化とチェンジ・ブラインドネス —間違い探し実験で見られるカナダ人と東アジア人の眼球運動の違い—

氏名: 大野真未

担当教員: 山岸俊男


 ヒトの目の作りは全人類共通であるが、事物の見方はそうとは限らない。特に、西洋の人々は中心に対して注意を向けやすいのに対し、東アジアの人々は中心のみならずそれを取り巻く背景にも注意を向けやすいことが近年の研究で分かってきている。例えば、Masuda and Nisbett (2006) は、チェンジ・ブラインドネスを用い、東アジア人およびアメリカ人参加者に、ある画像とその画像の一箇所に変化をつけた画像を交互に表示し、どこが変化したかを見つけさせた。すると、東アジア人は相対的に背景に起こる変化をより速くかつ多く見つけたのに対し、西洋人は相対的に中心に起こる変化をより速くかつ多く見つけた。

 本実験では、Masuda and Nisbett (2006) を踏まえ、中心もしくは背景に起こる変化を見つける課題を日本とカナダで実施し、その反応時間と課題遂行中の参加者の眼球運動を測定した。そして行動データに加え、参加者が意識的に統制することが難しい生理的な指標においても文化差が見出されるのであれば、日本人は相対的に背景の変化を速く見つけ、背景に対する注視回数や時間の割合も多いのに対し、カナダ人は相対的に中心の変化を速く見つけ、中心に対する注視回数や時間の割合も多いと予測した。また、本研究では変化の起こる範囲を被験者間要因としたことで常に特定の範囲内で変化が生じるため、試行を経るにしたがって反応時間が速くなったり注視回数や時間の割合が多くなったりするような慣れの効果についても検討した。

 その結果、文化にかかわらず、背景より中心の変化に対する反応時間のほうが速く、注視回数や時間の割合も多くなっていた。しかし中心に変化が起こる課題における中心への注視回数の割合は、カナダ人の方が日本人よりも有意に多く、予測された文化差を支持した。また、反応時間および注視回数・時間のいずれの指標においても、各課題における慣れの効果が見られた。

 本研究では、先行研究とは異なり常に特定の範囲内にしか変化が生じなかったが、こういった制約により当該の文化における注意様式の使用が妨げられたのかもしれない。このことは変化の範囲の制約の有無によって人の注意の向け方が異なることを示唆するが、この点は認知様式にかかわる文化差の頑健さを確かめていくためにも今後さらに検討していく必要があるだろう。


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