題目: 壁に耳あり障子に目あり−内集団への利他行動に対する目の効果−

氏名: 大熊ちひろ

担当教員: 山岸俊男


 他の人から「見られている」と感じると、人はより協力的・利他的な行動をとりやすくなる。近年のゲーム実験研究(たとえばBurnham & Hare, 2007; Haley & Fessler, 2005)は、評判メカニズムを想起させる手がかりが、人々の利他行動・協力行動を引き出すことを示しており、利他行動と評判メカニズムの関連性が指摘されている。本研究の目的は、人々が備える評判へのセンシティビティーに着目し、なぜ「見られている」と感じると、人は利他的に振る舞うようになるのか、という問いを実証的に検討することにある。

 本研究では、利他行動を集団内における一般交換システムからの排除を防ぐ評判維持戦略として捉え、上述の問いに対する一つの解釈を提示する。Yamagishi & Mifune(2008)は最小条件集団状況における内集団への利他行動を理解するため、分配者と受け手が互いの所属集団を理解している双方向条件と、受け手に分配者の所属集団を知らせない一方向条件を設定し、独裁者ゲームにおける分配者の行動を比較した。その結果、双方向条件において確認された内集団への利他行動が、一方向条件において消失することを示している。本研究の実験1では、彼らの実験デザインと、目玉模様をデスクトップ画面に提示することで独裁者ゲームにおける提供金額が上昇することを示すHaley & Fessler (2005)の実験手続きを組み合わせ、一方向条件においても、評判のメカニズムを想起させる手がかりを与えれば、内集団への利他行動が生じるのかどうかを検討した。具体的には、受け手の所属集団(内集団・外集団)と評判の手がかり(有り・無し)を参加者間要因で配置し、独裁者ゲームにおける提供金額を比較した。

 その結果、一方向条件であっても、評判の手がかりが存在する場合には内集団への利他行動が生じることが示され、独裁者ゲームにおける利他行動は内集団成員に対する評判維持戦略として解釈可能であることが示唆された。また実験1の結果は、実験2においても追試され、この知見の頑健性も示された。

 Yamagishi & Mifune (2008)で得られた知見と、本研究の知見を踏まえると、内集団に対する利他行動を、一般交換システムからの排除を防ぐ評判維持戦略として捉えることがある程度妥当であると判断できる。また、人々が備える評判へのセンシティビティーも、この意味において適応合理性を持つと考えられる。


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