題目: 関係強化戦略としての自己開示—関係流動性に着目して—

氏名: 中村紫帆

担当教員: 結城雅樹


 これまでの研究で、自己開示には日米差があると報告されている(Barnlund, 1975; Barry, 2003; Ting-Toomey, 1991)。本研究の目的は、自己開示する程度や理由に見られる日米差が、関係流動性の高低によるものか否かを検証することであった。

 自己開示には、コストとベネフィットがある。コストとしては、他人に良くない印象を与えること(安藤, 1986)、ベネフィットとしては、他人との関係を強くすること(Altman & Taylor, 1973)が主に挙げられる。本研究では、このコストとベネフィットのバランスが、それぞれの社会の関係流動性によって変わると予測した。関係流動性とは、特定の社会において、新しい対人関係を形成する機会がどのくらい存在するかを指すものである(Yuki, Schug, Horikawa, Takemura, Sato, Yokota & Kamaya, 2007)。低関係流動性社会の日本では、関係が閉鎖的であるため、友人との関係の悪化を恐れると予測できる。よって、自己開示を深く、頻繁に行ないにくいと考えられる。一方、高関係流動性社会のアメリカは、関係が開放的であるため、友人が自分から離れてしまう可能性がある。よって、多少のコストを払ったとしても、自ら積極的に自己開示を行うと考えられる。以上より、人々が自己開示を避ける、または行う理由として、日本を始めとする関係流動性の低い社会では、人間関係に傷をつけないため、アメリカを始めとする関係流動性の高い社会では、人間関係を強くするためになるだろうと予測し、検証を行った。

 この検証のため、質問紙調査を行った。その結果、日本を始めとする低関係流動性社会の人々がそれほど自己開示をしない理由は、人間関係に傷をつけたくないからであるとの仮説は、関係流動性とその理由との間に予測とは逆である正の相関関係が見られるなど、支持されない結果が多かった。しかし、アメリカを始めとする高関係流動性社会の人々が友人に高い自己開示をする理由は、人間関係を強くしたいからであるとの仮説は、大部分で支持された。これは、関係流動性の一つの指標である新規知人数とその理由との間に正の相関関係が見られたことなどから示された。よって、高関係流動性社会の人々は、より友人との関係を強化する戦略として自己開示を用いると示された。


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